伊東光晴『ガルブレイス』を読む

 伊東光晴ガルブレイス』(岩波新書)を読む。副題が「アメリカ資本主義との格闘」。普段ほとんど経済に関する本を読まないのに、読売新聞の書評(2016年4月24日)で政治学者の牧原出が推薦していたので手に取った。その書評から、

 『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『不確実性の時代』など、多作でベストセラーも多いアメリカの経済学者ガルブレイスは、20世紀を代表する知性の一人でもある。著者は、日本経済の現状と政府の政策について鋭い批判を放ってきた論客の経済学者。大病から生還した後、不自由な体を押して書き上げた。「歴史に残る瞬間に身を置く」ことの意味を問う冒頭の一文から気迫がみなぎる。研究と現状批判の集大成である。
(中略)
 本書は、旧著『ケインズ』『シュンペーター』とともに3部作をなす。3人の理論は、戦後日本の経済学者の政治的役割に投影された。敗戦後に経済安定本部の次官待遇として経済復興政策を推進し、ケインズを咀嚼・総合したサミュエルソンを紹介した都留重人。賃金2倍論を唱え、経済審議会総合策部会長として国民所得倍増計画を政府に提案した中山伊知郎。彼らをケインズシュンペーターに重ねてみる。バブル経済崩壊からアベノミクスまで、政府の経済政策を指弾し続けた著者の生き様は、やはりガルブレイスだ。経済学者の群像は、資本主義の発達史であり、そのまま戦後日本の政治史でもある。3部作を読み通すと、20世紀の世界と日本が浮かび上がる。そこで著者は問いかける。何をなすべきか、と。重いメッセージである。

 本書のカバー袖の惹句に特徴が簡潔に表現されている。

ケインズによってイギリス論を、シュンペーターをかりてドイツ社会を論じてきた社会経済思想史研究3部作の完結編。

 経済に関する本を読んでこんなに面白かったのは、森嶋通夫の自伝3部作以来だ。伊東光晴ガルブレイスの経済学を実にわかりやすく解説してくれる。最初にアメリカの社会と思想、経済学を概観し、ついでガルブレイスの半生を綴る。その後、彼の代表的著書『アメリカの資本主義』『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『経済学と公共目的』『大恐慌』をていねいに紹介している。そんな小難しいように思える内容がとても刺激的で面白かった。経済に関してほとんど無知な私が、なんだか分かったような気になったほどだ。
 40年前に読んだ伊東の『ケインズ』やガルブレイスの『ゆたかな社会』を読み直してみよう。