国立新美術館の李禹煥展を見る

ちらし



 東京六本木の国立新美術館李禹煥展が開かれている(11月7日まで)。李について美術館のホームページより、

 

李禹煥(リ・ウファン) 1936年、韓国慶尚南道に生まれる。ソウル大学校美術大学入学後の1956年に来日し、その後、日本大学文学部で哲学を学ぶ。1960年代末から始まった戦後日本美術におけるもっとも重要な動向の一つ、「もの派」を牽引した作家として広く知られている。1969年には論考「事物から存在へ」が美術出版社芸術評論に入選、1971年刊行の『出会いを求めて』は「もの派」の理論を支える重要文献となった。『余白の芸術』(2000年)は、英語、フランス語、韓国語等に翻訳されている。50年以上に渡り国内外で作品を発表し続けてきた李は、近年ではグッゲンハイム美術館(ニューヨーク、アメリカ合衆国、2011 年)、ヴェルサイユ宮殿ヴェルサイユ、フランス、2014年)、ポンピド ゥー・センター・メッス(メッス、フランス、2019 年)で個展を開催するなど、ますます活躍の場を広げている。国内では、2010年に香川県直島町安藤忠雄設計の李禹煥美術館が開館している。本展は、「李禹煥 余白の芸術展」(横浜美術館、2005年)以来の大規模な個展となる。

 

 同じく展覧会の見どころより、

 

1968年頃から制作された〈関係項〉は、主に石、鉄、ガラスを組み合わせた立体作品のシリーズです。これらの素材には殆ど手が加えられていません。李は、観念や意味よりも、ものと場所、ものと空間、ものともの、ものとイメージの関係に着目したのです。1990年代以降、李はものの力学や環境に対しても強く意識を向けるようになり、石の形と鉄の形が相関する〈関係項〉も制作しています。より近年の作品では、環境に依存するサイトスペシフィックな傾向が強まっており、フランスのラ・トゥーレット修道院で発表された《関係項―棲処(B)》(2017年)はその典型です。

「関係項」



 李は鉄板の上に大きな自然石を置いただけの立体作品で高く評価されている。素材にはほとんど手を加えていない。

 また平面作品については、

 

1971年にニューヨーク近代美術館でのバーネット・ニューマンの個展に刺激を受けた李は、幼年期に学んでいた書道の記憶を思い起こし、絵画における時間の表現に関心を強めました。1970年初頭から描き始めた〈点より〉と〈線より〉のシリーズは、色彩の濃さが次第に淡くなっていく過程を表しています。行為の痕跡によって時間の経過を示すこのシステマティックなシリーズは、10年ほど続けられます。

1980年代に入ると、〈風より〉と〈風と共に〉のシリーズに顕著なように、画面は荒々しい筆遣いによる混沌とした様相を呈してきます。80年代終わり頃からはストロークの数は少なくなり、画面は次第に何も描かれていない空白が目立つようになります。2000年代になると、〈照応〉と〈対話〉のシリーズが示すように、描く行為は極端に限定され、ほんの僅かのストロークによる筆跡と、描かれていない空白との反応が試されます。〈点より〉や〈線より〉と対照的に、これらは空間的な絵画のシリーズと言えます。

「線より」

 さて、若いころ李禹煥は関根伸夫の《位相―大地》を見て興奮する。またニューヨーク近代美術館でのバーネット・ニューマンの展覧会を見て衝撃を受ける。《位相-大地》は公園に丸く掘った土を穴の横に円筒形に積み上げたものだ。バーネット・ニューマンはアメリカ抽象表現主義の代表的画家で、大きな画面を1色で塗りつぶし、そこにストライプ状の線を引いただけのものだ。

 李の立体はほとんど手が加えられていない。初めて見るときは、鉄板の上に自然石を置いただけのものが「作品」だということに衝撃を受ける。しかし見慣れてくると、つまらなくなってくる。作為がないということの退屈さ。

 おそらく李もそのことに気づいたのではないか。会場に「項」と題された石と鉄の立体が展示されている。長方形の鉄板からフリーハンドのように一回り小さい鉄板を切り抜き、そこに自然石を置いている。土台の鉄板が切り抜かれたものだと分かるように背後の壁にコの字型の切り抜かれた鉄を展示している。おそらく李は、作為の跡を示したのだろう。これを見て、ポロックの作品「カットアウト」を思い出した。大原美術館に収蔵されている「カットアウト」はポロックのドリッピングの作品の中央を人型に切り抜いたものだ。ポロックもドリッピングの作品の作為性の少なさに悩んでいたのではないか。事実ポロックは数年間続けたドリッピングの仕事をやめてしまう。李も作為性のなさを自己批判したのではなかったか。だが、李は周囲の評価の高さから、ポロックとは異なり制作を続行していく。退屈なその仕事を。

「項」

     ・

李禹煥

2022年8月10日(水)―11月7日(月)

10:00-18:00(金・土は20:00まで)火曜日休館

     ・

国立新美術館

東京都港区六本木7-22-2

ハローダイヤル050-5541-8600

https://www.nact.jp