養清堂画廊の渡辺晃一展を見る

 東京銀座の養清堂画廊で渡辺晃一展が開かれている(8月27日まで)。渡辺は北海道出身。筑波大学大学院芸術研究科修了。2001年、文部科学省在外派遣員としてアメリカ、イギリスに滞在。ペンシルバニア州立大学客員研究員。ロンドン芸術大学客員研究員。2018年、パリ国立美術学校客員教授。生命形態(人体、動植物、地球)をテーマに現代美術を研究している。

 渡辺の言葉、

 

宮澤賢治の代表作『銀河鉄道の夜』の序奏とされる詩「薤露青(かいろせい)」。真っ青な韮の葉のような夜空と葉に浮かぶ露から星をイメージした銀河の魂を詠っています。宮澤賢治の作品には「青」が多用されています。宇宙飛行士の毛利衛氏は「宇宙から見た地球の青」と宮澤賢治の「青」が一致したと語りました。青色顔料で耒(すき)を祓い清める儀式を意味していた漢字の「静」。広大な宇宙の中で、賢治は「静」かで争いのない「清」らかな世界への祈りが「青」に込められています。

 

 今回渡辺は円形のパネルやキャンバスを展示している。ミクストメディアで、漆、油彩、蛍光塗料、墨、アクリルなどを使っている。大きな作品は直径45cm、ほかに小さな作品を大量に展示している。これらは宇宙から見た地球なのだろうか。世界初の宇宙飛行士ガガーリンの「地球は青かった」の台詞を思い出す。




 その宮沢賢治の「薤露青」

 

みをつくしの列をなつかしくうかべ

   薤露青の聖らかな空明のなかを

   たえずさびしく湧き鳴りながら

   よもすがら南十字へながれる水よ

   岸のまっくろなくるみばやしのなかでは

   いま膨大なわかちがたい夜の呼吸から

   銀の分子が析出される

     ……みをつくしの影はうつくしく水にうつり

       プリオシンコーストに反射して崩れてくる波は

       ときどきかすかな燐光をなげる……

 

   橋板や空がいきなりいままた明るくなるのは

   この旱天のどこからかくるいなびかりらしい

   水よわたくしの胸いっぱいの

   やり場所のないかなしさを

   はるかなマヂェランの星雲へとゞけてくれ

   そこには赤いいさり火がゆらぎ

   蝎がうす雲の上を這ふ

     ……たえず企画したえずかなしみ

       たえず窮乏をつゞけながら

       どこまでもながれて行くもの……

   この星の夜の大河の欄干はもう朽ちた

   わたくしはまた西のわづかな薄明の残りや

   うすい血紅瑪瑙をのぞみ

   しづかな鱗の呼吸をきく

     ……なつかしい夢のみをつくし……

 

   声のいゝ製糸場の工女たちが

   わたくしをあざけるやうに歌って行けば

   そのなかにはわたくしの亡くなった妹の声が

   たしかに二つも入ってゐる

     ……あの力いっぱいに

       細い弱いのどからうたふ女の声だ……

   杉ばやしの上がいままた明るくなるのは

   そこから月が出ようとしてゐるので

   鳥はしきりにさわいでゐる

     ……みをつくしらは夢の兵隊……

   南からまた電光がひらめけば

   さかなはアセチレンの匂をはく

   水は銀河の投影のやうに地平線までながれ

   灰いろはがねのそらの環

     ……あゝ いとしくおもふものが

       そのまゝどこへ行ってしまったかわからないことが

       なんといふいゝことだらう……

   かなしさは空明から降り

   黒い鳥の鋭く過ぎるころ

   秋の鮎のさびの模様が

   そらに白く数条わたる

 

 

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渡辺晃一展「薤露青」

2022年8月15日(月)―8月27日(土)

11:00-18:00(最終日15:00まで)日曜休廊

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養清堂画廊

東京都中央区銀座5-5-15

電話03-3571-1312