木村紀子『原始日本語のおもかげ』を読む

 木村紀子『原始日本語のおもかげ』(平凡社新書)を読む。袖の惹句から、

 

茸がどうして「~タケ」なのか? 次の飲み屋に向かうとき、かえるのはなぜ「カシ」なのか? 身近な言葉の来歴をさぐってゆくと、文字以前、列島上に、まだ声としてだけ響いていたころからの言葉と文化のすがたが浮かびあがる。

 

 コダマ(谺)とヤマビコ(山彦)は現代語ではほぼ同義だが、平安時代はまったくの別物だった。万葉集源氏物語を引いて著者はそう述べる。コタマ(コダマ)は鬼・神・狐に類するもので、「コタマの鬼」とさえ言われているが、ヤマビコのように声を返すものとは捉えられていない。今昔物語集に見られる「樹神(こたま)」は、人気のない古家の伸び放題の庭木などに住みつくものとされていた。対して「やまびこ」は答える(響く)ものだった。しかし、室町期にはすでに現代とほぼ同じような捉え方だった。

 こんな調子で、カユやツクシ、サメザメ、タカラ-クジ、マクラ、タスキとソデなどが分析される。著者は奈良大学名誉教授、専攻は言語文化論・意味論とある。なかなか面白い読書だった。