『超明解! 国語辞典』を読んで

 今野真二『超明解! 国語辞典』(文春新書)を読む。読売新聞の書評欄で出口治明が推薦していた(6月7日)。

 本書は、7つの小型国語辞典を辞書探偵(著者)がとことん調査したものである。一見無味乾燥とも思われる辞書の比較が、これほど楽しく面白い読み物に化けるとは! 著者の力量に脱帽した。

 取り上げられた7つの小型辞典とは、『岩波国語辞典』『角川必携国語辞典』『三省堂国語辞典』『集英社国語辞典』『新選国語辞典』(小学館)『新明解国語辞典』(三省堂)『明鏡国語辞典』(大修館書店)となる。カッコ内に出版元を表示したもの以外はタイトルに出版社名が冠で入っている。
 「新明解」が出た折り、まえがきで従来の小型辞書について、「先行書数冊を机上にひろげ、適宜に取捨選択して一書を成すは、いわゆるパッチワークの最たるもの、所詮、芋辞書の域を出ない」とうそぶいて話題になり、そのユニークな語釈も評判を呼んで、この辞書を素材にした何冊もの本が出版された。「新明解」によると「芋辞書」とは、「大学院の学生などに下請けさせ、先行書の切り貼りででっち上げた、ちゃちな辞書」のことだという。私も何となく「新明解」が優れた小型辞書なんだという印象を持っていた。とくに裏付けとなるデータもないままに。
 今野は7冊の辞書について比較検討する。序や凡例から各辞書の「哲学」を読み解く。「岩波」は「何らかのかたちで古語に配慮している辞書」。「角川」は高校生がこれ1冊で「百科事典+国語辞典+漢和辞典」として使うことができるというもの。「三省堂」は「時代を映す鏡」をその哲学にしている、かなり「今」寄りの辞書。「集英社」は「あらゆる人がこれ1冊でことたりる」辞書を標榜している。第3版の帯には「このサイズで国語辞典+漢字字典+百科事典の3つの要素が1冊に!」と謳われている。「新選」は和語と漢語を区別していて、「漢字をしっかりとおさえる」ことが哲学になっている。「新明解」は「創意と個性」を謳っている。しかし今野は「新明解」に対して特に厳しい態度であたっているように見える。「明鏡」は「今までにないただ一つの辞典を創る」と述べられていると紹介し、そのことに今野は簡単には同意していない。
 ついで各辞書の見出し項目数を比較する。多い方から「集英社」9万5千、「新選」9万320、「三省堂」8万2千、「新明解」7万7千5百、「明鏡」約7万、「岩波」約6万5千、「角川」5万2千。そして具体的に「ねったい」から「ねばる」までの84の見出し項目を上げて、各辞書がどれくらい対応しているか数え上げている。一番多かったのが「三省堂」の67項目、次いで「新明解」の62項目、少ない方から「角川」の34項目、「岩波」と「明鏡」が同数で47項目だった。次にカタカナ語への対応を数える。これは「三省堂」が最も多く、ついで「集英社」、少ない方からは「角川」ついで「岩波」だった。
 さらに語釈や用例を比較する。最後に基本的な中型辞書である『広辞苑』と比較している。よく調べ上げた辞書レポートだと思う。ただ面白さを狙っている本ではないので、それを期待するなら別の本にあたるべきだろう。


超明解! 国語辞典 (文春新書)

超明解! 国語辞典 (文春新書)