Steps Galleryのミラン・トゥーツォヴィッチ展がとても良い

 東京銀座のSteps Galleryでミラン・トゥーツォヴィッチ展が開かれている(4月19日まで)。ミラン・トゥーツォヴィッチ Milan Tucovicは1965年セルビアのゴロビリェ(ボジュガ市)生まれ、1991年にベオグラード芸術大学応用美術学部彫刻科を卒業している。
 日本での個展は、昨年10月の奥野ビル306号室プロジェクトに次いで2回目。とはいうものの展示している作品は昨年と同じものだ。私は最初の個展も見ているが、強くは印象に残らなかった。それが今回はあまりの作品の良さに驚いた。何が違うのか。端的に展示が違うのだ。
 前回の展示は古い古い美容室の痕跡の残っている部屋に、その痕跡はそのままに作品を展示していた。作品は壁面に残された雑多な夾雑物に埋もれ、まぎれてしまっていた、と今回の展示を見てそう思った。
 Steps Galleryの展示は、画廊主の吉岡まさみが行っている。吉岡は実は展示のプロなのだ。作品が文字通り見違えるように浮き出した。すると、トゥーツォヴィッチのすごさが私にも納得できた。すばらしい画家なのだった。吉岡の偉さは、昨年のあの雑然とした空間の中でトゥーツォヴィッチの作品の非凡なことを見抜いたことだろう。

 トゥーツォヴィッチはセルビアでは個展をしていないという。すべて美術館で発表しているという。今回は決して大きくない画廊空間での発表なので、みな小品だが、どれもすばらしい。椅子の絵の横に帽子を被った中年の男の肖像が並べられている。この肖像は円筒に描かれており、右下のハンドルで回るようになっている。


 若い女性の肖像画があるが、その上部に櫛が置かれている。このシリーズは3点が3列並んでおり、真ん中は鏡になっている。見る者が自分の姿を肖像画として写すことを意図しているのだろう。櫛のほかにもハサミやバリカンなどの道具が肖像画に添えられている。


 正方形のキャンバスに描かれた肖像画は、どこかワイエスを思わせるが、トゥーツォヴィッチに比べるとワイエスでさえ少し甘さが感じられるほどだ。吉岡によれば、トゥーツォヴィッチはよく知っている人しか描かないそうで、造形的なものよりその人物を描くことを重視しているらしい。そのことが、作品からある厳しさを感じさせるのかもしれない。

 画廊の奥の事務室には水彩画が飾られている。みな人物を描いたものだが、この水彩画もすばらしい。
 吉岡はまたセルビアで発行されているトゥーツォヴィッチの画集を見せてくれたが、本当に優れた画家であることが実感できた。日本の美術館で個展が企画されても不思議ではないし、いつかまとめて見られる日が来ることを期待したい。
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ミラン・トゥーツォヴィッチ展
2014年4月7日(月)〜4月19日(土)
12:00〜19:00(土曜日は17:00まで)日曜日休廊
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Steps Gallery
東京都中央区銀座4-4-13 琉映ビル5F
http://www.stepsgallery.org/
晴海通りから天賞堂GUCCIの間の道を入った右手、ギャラリー58の上の階