鬼海弘雄の写真集『ぺるそな』がおもしろい

 鬼海弘雄の写真集『ぺるそな』(草思社)がおもしろい。まえに鬼海の写真集『東京夢譚』を紹介したが、『ぺるそな』もとてもおもしろい。浅草の浅草寺の境内でそこに来る人々を1973年から2003年まで30年間撮りためたポートレート集だ。同じ場所で長期間撮影しているから、何年かのちに同じ人物を撮影することもある。本書は2005年に出版されたもの。
 撮影について鬼海が簡単に書いている。

 浅草寺にくると、いつも3時間ほど境内をうろついたり佇んだりしている。だが、写真を撮らせてもらうのは1人か2人だ。話しかけて撮影を頼む人もわずかで、ほとんどの時間は往き来する人をただ眺めているだけだ。しかし一向に退屈を覚えないのは、それぞれの人生物語をいっぱい背負ったような人が多く、想像力を刺激し、たくさんのドラマを語っていくからだろう。

 鬼海にモデルとして選ばれた人というのは奇怪な方たちばかりだ。

中国製カメラ「海鴎」を持った青年 1986(右)と、40歳になったという、中国製カメラを持っていた人(15年後)2001(左)

境内裏で「ひと踊り」してきたという男 1994(右)と、子どもの頃から目立ちたがりやでよくいじめられたが……と話す男(8年後)2002(左)

自分で作ったという曲を吹く男 1986(右)と、自作の歌を披露するひと(7年後)1993(左)

物静かな労務者 1985(右)と、何年ぶりかで会った物静かな労務者(15年後)2000(左)

ラジオ体操会に入っているというプラスチック型抜き工 1986(右)と、都バスのフリーパスで来たという元プラスチック型抜き工(13年後)1999(左)

 鬼海弘雄の写真集をもう1冊見た。鬼海の最初の写真集で『王たちの肖像−−浅草寺境内』(矢立出版)というB4版の大型写真集、1987年に出版されている。こちらには哲学者の福田定良ペダンチックなエッセイを寄せている。写真のコンセプトは『ぺるそな』と変わらない。

金貸し 1985(右)と、ビルの清掃人 1986(左)


ぺるそな

ぺるそな