浅井秀美『東京・ある日ある時』『東京・愛犬日和』(本坊書房)を見る(読む)。前者は「昭和から平成へ」、後者は「平成の下町」という副題がついている。浅井は1947年静岡県生まれ、1968年日本写真専門学院(現・日本写真芸術専門学校)を修了後、写真事務所を設立し、JRA日本中央競馬会専属カメラマンとなる。
『東京・ある日ある時』は2000年に発行された。写真はすべてモノクロで1ページに1枚、キャプションは撮影年月日と撮影場所のみ、それが昭和42年(1967)4月から平成12年(2000)4月まで、経時的に並べられている。被写体はすべて東京の繁華街や下町の人々であり、演出なしのスナップになっている。風俗写真集と言ってよいだろう。今和次郎の「考現学」写真版といったところか。
昭和43年の新橋駅前の看板に「朝食120円」と書かれている。昭和52年の宝くじ売りの1等賞金が1000万円となっている。昭和58年、西新宿・三井ビル前広場で踊っているのはギリヤーク尼ケ崎だろうか。昭和60年、渋谷駅の公衆便所で小便をしている男たちの前にはピンクちらしがぎっしり貼られている。そういえばその頃、私も神田の1台の公衆電話ボックス内で数えたらサラ金のちらしが80枚以上貼られていた。
平成4年の青山霊園では、カップルが抱き合っていたり、男が二人酒を飲んでいたり、飲み会をしている集団もいる。ベンチで昼寝しているサラリーマンや職業不詳の人たちを撮った写真も多い。寝ていると撮りやすいのだろうか。最後のページの平成12年4月8日の写真は原宿センター街を行くガングロ・ルーズソックスの姐ちゃんだ。
似たような写真集では浅草の浅草寺境内でそこを訪れる変わった人たちのポートレートを撮り続けている鬼海弘雄を思い出す。鬼海は被写体になった人たちを立たせて正面から撮っている。
もう1冊の『東京・愛犬日和』は2015年に発行された。体裁は前著と同じ。こちらは犬のいる風景を集めている。犬が主役なのだけれども、犬のいるスナップなので、風俗を見る面白さは多少薄れている。また犬をアップで撮っているわけではないので、岩合光昭の猫の写真の猫の魅力には及ばない。210ページの京島の写真は、意図することなくトマソンの写真になっていた。赤瀬川原平ら路上観察学会のメンバーが見たらトマソンと認定されるだろう。取り壊された隣の屋根の形が残った隣家の壁にくっきりと印されている。
なお、浅井秀美写真展「東京下町日和―平成の墨田」が4月11日から墨田区緑のフリースペース緑壱で開かれるという。http://ryokuichi.wixsite.com/ryokuichi
- 作者: 浅井秀美
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