東京京橋のアートスペース羅針盤で沢登丈夫個展が開かれている(8月23日まで)。沢登は会期最終日の8月23日に77歳の誕生日を迎えるという。しかし今回が初個展なのだ。
沢登は東大を卒業後、大手の化学メーカーに勤務した。実は沢登は年季の入った美術のコレクターなのだ。それもそのはず、現代美術の画廊の草分け伝説的な南画廊のオーナーの志水楠男が沢登の伯父なのだった。伯父の影響で若い頃から現代美術の収集を始めている。
沢登は初め静物画を描いていたが、やがて夜の風景、暗闇に浮かび上がるコンビニやマクドナルドなどを描いている。ついで夜の国道4号線を描き、そして夜の道路に歴史的な記念日を重ねて描き始める。日付を年月日時間まで描き込んでいる。日付を描くのは河原温を連想させるが、河原がニュートラルな日付を描くのに対して沢登は歴史的な記念日にこだわり、その日付に関連する夜の道路を描く。
8月15日は昭和天皇がポツダム宣言を受け入れたことを国民にラジオで発表した日だ。
12月23日は先の天皇の誕生日だが、同時にそれは東条英機などA級戦犯がGHQによって処刑された日でもあった。GHQは東条英機など戦犯の命日を国民が長く追悼しないように当時の皇太子の誕生日を選んで処刑した。GHQの思惑は成功して、日本国民は東条英機などの命日をすっかり忘れて(平成)天皇の誕生日を祝日として祝ったのだった。
そのほか、3月10日は東京下町の大空襲があった日付、4月15日は川崎が空襲された日、5月24日は世田谷が空襲を受けた日で、5月25日は東京山の手が空襲を受けた日だったという。
沢登は長く美術コレクターだったが、その後コレクターのグループ美楽舎の会長を務め、数年前からは四谷3丁目でTS4312という現代美術の企画画廊を経営している。変な名前のTS4312とは、住所の東京都新宿区四谷三丁目12番地の頭文字を繋いだものだ。ギャラリーは原則金土日の週に3日間営業いている。沢登の企画展も面白いが、美術に関する沢登の饒舌も興味深い。機会があったら訪ねられることをお勧めする。
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沢登丈夫個展
2020年8月17日(月)-8月23日(日)
11:00-19:00(最終日は17:00まで)
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アートスペース羅針盤
東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビル2F
電話03-3538-0160