「死の蔵書」はお薦め

 ジョン・ダニング「死の蔵書」(ハヤカワ文庫)を読む。よくできたミステリで堪能した。謎も最後まで分からなかった。主人公の警官が古書のコレクションが趣味というインテリで、そのことが事件と深く絡んでいく。古書に関してあまりにも詳しいのは、あとがきによればダニングは一時期古書、それも稀覯本を扱う古書店を開いていたのだという。主人公の警官の口を借りて、おそらく作者の作家評が語られる。

われわれが生きているこの時代では、スティーヴン・キングの初版本にマーク・トウェインの初版本と同じ値段がつき、しかもその10倍は売れる。なぜなのか、説明してもらいたいものだ。私にはわからない。おそらく現代の人間は知性よりも金を多く持っているのだろう。それとも、このキング・ブームの背景には、私の理解を超える何かがあるのだろうか。私はしばらく前に『ミザリー』を読み、すごい小説だと思った。誘拐の恐怖を緻密に描いた点で、ファウルズの『コレクター』に匹敵する。ファウルズを現代の文豪の一人とみなしている私がいうのだから、これは最大級の褒め言葉だろう。そのあと、『クリスティーン』を読んだが、まるで別人が書いた本のようだった。あんなできそこないの小説はほかに読んだことがない。つまり、私には何もわかっていないのだ。『呪われた町』のような作品が、10ドルから1,000ドル近くまで値上がりした理由も見当がつかない。比較対照のために例を挙げれば、完璧に近い『怒りの葡萄』の初版には、その2倍の値がついている。ヘミングウェイの『老人と海』なら同じ金額で5冊買うことができるし、トマス・ウルフの『時間と河について』なら6冊買える。ラドヤード・キップリングジャック・ロンドンの著者署名つきの初版本でも、それより安く手に入るのだ。

 書店員になりたいと入ってきた若い娘に、古書の講義をするシーン。

ジェーン・フォンダのワークアウト・ブック』? そんなものはどうでもいい。本を読む人間は大きく二つに分けることができる。ベストセラーを読む人種と、そうでない人種だ。中には二股をかけている者もいるが、ジェーン・フォンダの本やアトキンス博士のダイエット本のようなベストセラーは、ベストセラー・リストに載った瞬間に生命を得て、そこから消えたときにはもう死んでいる。読みたい者は、話題になっているときに買う。そして、6カ月もすれば、買う者は一人もいなくなるのだ。

 本を読みそうもない弁護士の蔵書を調査する。

 そのあと、居間を調べた。犯罪的なくらいおつむの足りない人間のために出版されている《リーダーズ・ダイジェスト》の「コンデンスト・ブック」(ベストセラーの内容を圧縮し、短時間で要点だけを手軽に読めるようにした本)さえなかった。

 小気味いいほどの酷評だ。読み始めてすぐに、買ってから1年以上手に取らなかったことを悔やんだのだった。

死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)