日本橋高島屋の犬塚勉展「純粋なる静寂」

 日本橋高島屋8階ホールで犬塚勉展「純粋なる静寂」が開かれている。犬塚は1949年神奈川県生まれ、1976年に東京学芸大学大学院修士課程を修了している。その後小中学校の美術教師をしながら絵画制作にはげんでいた。1988年谷川連峰を登山中遭難死する。享年38歳。
 それまで人物や仏像など特に個性的とはいえない作品を描いていた犬塚が、1984年に突然「ひぐらしの鳴く」という大作を描き上げる。今回の犬塚勉展のちらしの表紙に取り上げられている作品だ。(これは部分で、実際は左右がもっと大きい)。

 山の開けた斜面に生える針葉樹と雑草がつくる周囲の草原を、これ以上不可能なくらいに細密に描いている。草原はイネ科植物や広葉植物、シダ類などに覆われている。すぐれた作品だ。

 その2年後には傑作「梅雨の晴れ間」が描かれる。中央に雑草が生えそろった開けた空間がある。右手に株立ちのような灌木があり、灌木と草原の一部に右手の見えない樹木の影が落ちている。前景にヒメジョオンらしい花が咲いている。草原はイネ科植物が優占しているようだ。灌木を回り込んで踏み固められた小道が手前から右手奥に消えている。遠景はススキが生えているように見える。ここは庭などではないが人家からさほど離れた場所でもないだろう。
 その後、画家の興味は草原から山頂の石ころばかりの空間や、大岩、ブナの巨木の幹、切り株などに移っていく。どうしてもっと草原を追求しなかったのだろう。大岩の前に少女が立っている作品もある。これは何て甘いのか。ワイエスに近づいて、その先に独自な世界に突き抜けることができたのかも知れないのに。
 細密画では諏訪敦や磯江毅を思い出す。残念ながら犬塚はそのレベルまで達することができなかった。

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犬塚勉展「純粋なる静寂」
2011年9月7日(水)→9月26日(月)
10:00〜20:00(最終日18:00まで)
入場料 大人800円、大学・高校生600円、中学生以下無料
日本橋高島屋8階ホール