銀座にもある番外地

 以前、カラーポジ専用の現像所である銀座のスポット商会と付き合っていた。写真がデジカメに移行してゆき、フィルムの現像が極端に減少して経営が大変になったとかで、大手のラボの傘下に入ったとスポット商会が挨拶に来たことがあった。その時の挨拶状に不思議な住所が書かれていた。スポット商会は銀座の高速道路の下、昔の西銀座デパート、現在は銀座インズという建物に入っている。そこの住所が「銀座何たら何番地先」となっていたのだ。この「先」とは何だろう。
 その答えが今尾恵介「住所と地名の大研究」(新潮選書)にあった。

 境界未定地では所属市町村が決まらない場合も多いが、山林や原野だけでなく東京・銀座にもあるのをご存知だろうか。地下鉄丸ノ内線銀座駅を降りてすぐの首都高速道路の下に入っている「銀座インズ」がそうだ。ここはもともと外堀川であったのを埋め立てた土地であり、河川や用水の通例のとおり無番地であった。これはインズだけではなく、この外堀に続く旧河川敷の約400を数える店舗の問題なのだが、今なお決着していない。
 従来は外堀の中心にあった千代田区(有楽町)と中央区(銀座)の境界であったが、両区とも外堀川の埋立地を「自らの土地」であるとして譲らないため、住居表示が施行できない。銀座インズは「銀座西二丁目2番地先」という表示で会社の登記をしてあるというが、銀座西は今は存在しない町名だ。そんなわけで所属区が決まらないため、インズでは便宜上、保健所の管轄が千代田区、税務署と警察が中央区という暫定的な取り決めでやりくりしているのだという。

 ついでに、網走番外地と呼ばれる網走刑務所の本当の住所は、「網走市字三眺官有無番地」だという。

住所と地名の大研究 (新潮選書)

住所と地名の大研究 (新潮選書)