吉田暁子の個展が東京画廊で開かれている

 吉田暁子の個展「視/夜(しや)_意義黎明」が銀座8丁目の東京画廊BTAPで開かれている(4月18日まで)。吉田暁子はコンセプチュアル・アートの作家で作品はきわめて難解だ。だが難解であると同時にきわめて魅力的でもある。履歴を見ると多摩美術大学在学中に創画会に入選している(1994年)。そして15年前から個展を繰り返してきたが、いつも不思議な作品を展示してきた。なびす画廊の個展では何かが描かれているキャンバスをトレーシングペーパーで包み、購入した人が持ち帰ってトレーシングペーパーを外して見る作品。また裏返して展示された作品等々。
 表参道の小原エスパースで行われた美術評論家の峯村敏明が主催する「平行芸術展」というグループ展を見に行った時のこと、パンフレットには吉田暁子の名前が記されているのに、会場のどこにも彼女の作品だけが見当たらなかった。いぶかしく思いながら会場を出ようとすると、出口近くの電気のコンセントに紙が貼られている。それで気づいて改めて会場の壁を見ると一面におそらく和紙だろう白い紙が貼られていた。それが吉田の作品だった。
 今回の展示は再び不思議なものだった。画廊正面に1段高く台座が置かれ畳が敷かれている。その上に8曲1隻の古そうな屏風が立てられている。屏風には5人の女房たちが描かれている。それに吉田によって炎などが描き加えられている。台座の脇には枯木が立てられている。
 画廊の奥には別の屏風が置かれ、それにも吉田の手によって木の幹らしきものが描き加えられている。しかもその屏風の前には梯子が立てかけられているのだ。これは一体なんだろう。
 壁には平面作品が何点も並べられている。多くの作品が多層から成り立っている。この平面作品は半透明な紗やラバーなどで覆われ、その紗などにも図像が描かれている。この複数の層で作品を作るのは吉田が何度も試みている手法なのだ。







 画廊で渡されたリーフレットより。

吉田暁子は'日本の絵画'をその概念規定から取り組む作家です。本展では、これまで制作された紗・屏風の作品に加え、吉田の新たな試みである家具を使用した新作を発表いたします。展示スペースを一つの部屋のように仕立て上げ、空間総体を使った絵画のインスタレーションを展開いたします。一見するとホワイトキューブに並べられるインスタレーションのような作品ですが、そこには古い部屋のような影が投げかけられています。しかし、いつか見たような気がするその部屋の面影は、やはり私たちが見慣れたものとはどこか異なっていることに気づかされます。本展のインスタレーションは単なる表現手段ではありません。それはむしろ、私たち日本人が常日頃、どのような表現を身につけてきたのか、その「しつらい」の仕組みを自然に解き明かす装置となるのです。


吉田の作品は岩絵の具や膠などの伝統的な画材や、私たちが日ごろ目にするありふれたものを素材として使用します。作品の形式は絵画だけにとどまりません。古来の庭師のように空間を構築するインスタレーション、描くことそのものを問いかける能の舞のようなパフォーマンスなど、吉田は自らの制作を通して「絵画」の定義領域を大胆に探ってきました。東京画廊BTAPでの3回目の個展となる本展では、様々な質感や色彩に溢れた、総合的な芸術表現を追求します。


昨年50周年を迎えた東京画廊BTAPは、斉藤義重、もの派など、東アジアの現代美術をその始まりから見つめてきました。吉田暁子の個性は、日本の伝統の隠れた水脈を掘り当て、新鮮なアートシーンに引き込む点で、その歴史の中でも際立ったものです。彼女の思考と創造の最先端が空間となって具体的に明かされる本展をご高覧ください。

 ついで「作品紹介」として、

吉田暁子は「日本の絵画」の探求を一貫したテーマとして制作を続けています。吉田が10年来取り組んできた「中心を持たず、各部分が独立しつつ空間総体を現出させる」という構成法は、琳派狩野派にその優れた例を認めることができる、作家独自に探求・着目してきた日本古来の構成法です。吉田の作品は、西洋の強い影響下に発展した日本の現代美術を問い直し、その独自の可能性を探るものです。
吉田は、パフォーマンスやインスタレーションなどさまざまな形式を用いて、日本美術の過去と現在が交錯する視覚的イリュージョンを、"絵画"として生み出します。
漆や紗、和紙、顔料などの古典的な素材だけではなく、鏡や集光塩ビ素材などを使い、根幹的な、みること、かんじること、かんがえることの愉悦を顕現させます。
昨今の日本のアートシーンは活況を呈していますが、日本の絵画表現の独自性はどこにあるかという深い探求は、まだ手付かずのままです。マンガやアニメなどに特徴的に見られる平面構成に日本の独自性を見るのは、既に一般化した立場と言えるでしょう。しかしそのような様相に単純化されることで、材料や空間設定など、日本美術の伝統が持つ幅広い表現は、置き去りにされているのが現状です。
吉田暁子は日本の文化の複雑な構造をその素材にまで分け入って検討し、自らの表現を切り開くという困難な営みを粘り強く行っています。西洋と東洋が交錯する現代日本の難解な歴史的文脈を解読し、華やかな視覚表現にまで昇華させる力量を持ったアーティストです。

 吉田暁子は1970年、名古屋生まれ、1996年多摩美術大学大学院修了。
 4月11日(土)17:00〜美術評論家ジャクリーヌ・ベルントとの対談が予定されている。
 また15年の作家活動を収めたカタログを編集中で個展の会期中に発行したいと言っている。


東京画廊BTAP
東京都中央区銀座8-10-5
電話03-3571-1808
http://www.tokyo-gallery.com
3月25日ー4月18日、11:00ー19:00(土曜日ー17:00)
日曜・月曜・祝日休廊