印象に残った講演会3つ

 今までに強く印象に残った講演会が3つある。もう30年以上前にNHK教育テレビで見た加藤周一の講演会、しかし感動したこと以外もう覚えていない。
 十数年前に目黒区立美術館で聴いた宇佐美圭司の講演会。はじめに、この間ジャスパー・ジョーンズと飯を食べたんだけど、彼は今年作品を作っていない。昔の作品を何点か版画に起こしているだけなんだ。なぜ彼が描けないのか、というところから話し始めて、現代美術が袋小路に陥っているという話だった。この講演は何年かあと岩波新書の「20世紀美術」になった。抽象表現主義の大作は将来文字通りのゴミになっているだろうと予言した。その10年後くらいに府中市立美術館で開かれた宇佐美圭司展に関連して行われた講演会にも期待して行ったのだったが、期待はかなえられなかった。
 3つめは大江健三郎が朝日カルチャーの主催で新宿の生命保険会社のホールで行ったものだった。「ハビット(習慣)について」ではなかったか。若い頃書いたエッセイ集「持続する志」に響き合う講演で、習慣づけられた執筆生活の結果、困難な局面に遭っても解決法が生まれてきて作品が完成するということを、アメリカの作家フラナリー・オコナーや自分の「人生の親戚」の執筆過程を例に引いて語っている。講演会の前夜は徹夜して原稿を推敲すると言っていた。講演は論理的な展開で、私はその後何年もこの講演の骨子を再現できた。これもまとめられて出版されている。「人生の習慣(ハビット)」(岩波書店)。そのあと、早稲田学院だったかのPTA総会で話された講演はつまらなかった。ここの校長と中野のプールで一緒になり、講演を頼まれたと言っていた。おそらく手を抜いて徹夜などしなかったのだろう。