トキ・アートスペースの高橋理加展「Nussun dorma~誰も寝てはならない」を見る

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 東京神宮前のトキ・アートスペースで高橋理加展「Nussun dorma~誰も寝てはならない」が開かれている(2月23日まで)。東京での個展は8年ぶりだという。高橋は1963年東京生まれ、多摩美術大学絵画科を卒業している。画廊のホームページに高橋のだろう言葉が掲げられている。

 牛乳パックの再生紙によるヒトガタを使ったインスタレーションを行なってきた。ヒトガタは多くは実物大の子供や赤ん坊の姿をしているが、それらの意味するところは我々現代人(大人)の世界である。今回の個展は、再生紙によるヒトガタインスタレーションと半平面の作品の 2 部構成で、「社会と人間の尊厳」についての問いかけをコンセプトとし、どちらも国の指針が揺らいでいる不穏な空気の現代または、近未来の人間像を表現している。
 今回の展示のタイトル「Nessun dorma~誰も寝てはならない~」は、プッチーニのオペラ「トゥーランドット」の有名なアリアの一節である。冷酷な姫様が、出した謎かけに求婚者の若者が見事に答え、反対に自分の名前を答えよと、謎をかける。姫は国民に「明朝までに彼のものの名前を調べよ、さもなくば皆殺しにする」と威をかける。名前がわかるまでは民は誰も寝てはならない、と。
 失われた三十年と呼ばれる今日、経済の再生もままならない中で、憲法改正の動きだけは、活発化しているように思う。漠然と平和な社会の残火にあたり、いつまでもまどろんでいれば、当たり前のように思っていた自由や権利が、その手からこぼれ落ち、時代は思わぬ方向へと変わっていくだろう。目を見開いて現実を見ていなければ。今は誰も寝ていてはならない。

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 展示を見よう。最初のスペースには壁に人型が描かれ、それが鉛製のランドセルを背負っている。ランドセルはフタが開き、中にメッセージが書かれた紙が入っている。
「きほんてきじんけんのふかしん/じゆう・けんりのほじとらんようきんし・りようせきにん」とか「なぜ おもったことをいったらいけないの?」とか・・・

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 奥のスペースはカーテンで仕切られていて、中に入ると牛乳パックの再生紙で作られた人型がいずれも倒れていたり寝ていたりしている。中央に銃が吊るされていて、するとこれらの人型は戦火に倒れた人達だろうか。奥の壁に「Nessun dorma」(誰も寝てはならない)と書かれている。
 「誰も寝てはならない」さもなくば姫=圧制者に皆殺しにされてしまう。高橋は声高に叫ぶことはしない。プッチーニのアリアのタイトルを借りて静かに私たちに忠告しているのだ。「誰も寝てはならない」。迫りくる戦争の足音を聞き取りなさい、目を覚ましてそれに立ち向かいなさい、と。
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高橋理加展「Nussun dorma~誰も寝てはならない」
2020年2月17日(月)―2月23日(日)
12:00-19:00(最終日17:00まで)
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トキ・アートスペース
東京都渋谷区神宮前3-42-5
電話03-3479-0332
http://tokiart.life.coocan.jp/