片山杜秀『音楽放浪記 世界之巻』(ちくま文庫)の巻末の参考音盤ガイドがとても濃い~内容で興味深い。その一部を紹介する。
6.さようなら、クライスラー
「オール・アメリカン・ショーケース」
マントヴァーニ・オーケストラ〔輸・Vocalion〕
クライスラーの延長線上にはハイフェッツのみならずマントヴァーニ楽団だっているだろう。SP時代のヴィブラートたっぷりの弦楽サラウンドの記憶をLP時代に極大化してなぞろうとするとヴィブラートとエコーかけまくりのストリングス・ムード音楽になるのだ。
19. クセナキス・確率論・戦争
「クセナキス/《ペルセポリス》
作曲者制作の磁気テープ〔輸・RZ〕
クセナキスの暴力ノイズ音楽は誰が聴いてもいいというものでもない。私は学生時代、脈のありそうな友人を見つけると部屋に連れこんではフル・ヴォリュームでこの1枚をかけてみた。10秒で適性の有無がわかる。
22. ブーレーズの“スピード”
「シュトックハウゼン/《金曜日のカップル》
カティンカ・パスフェーア、カールハインツ・シュトックハウゼン(声)他〔輸・Stockhausen Verlag〕
男女がユートピア的歌い交わしを1時間以上やる。そんな曲のCDを自分で勝手に作るシュトックハウゼンと、現代資本主義世界のただなかに生き、メジャー・レーベルでCDを作りつづけるブーレーズ。この対照的生き様。
24. 「近眼派」音楽叙説
「フェルドマン/《トライアディック・メモリーズ》
高橋アキ(p)〔コジマ録音〕
フェルドマン(1926-87)の、切れ目なしで60分とか360分とかを要し、しかも弱音ばかりで針音さえ邪魔になるような長時間音楽は、LPになじまず、その音盤化はほとんどCD以後。当盤はその最初期のもの。1983年録音、89年初出。
数年前東京オペラシティで高橋アキ演奏するフェルドマンを聴いた。切れ目なしの80分だった。やはり高橋アキで最初にフェルドマンを聴いたのも30年近く前の草月ホールだったと思う。
29. ラッヘンマンの疎外とさび
「ラッヘンマン/《今》《ノットゥルノ》
ジョナサン・ノット指揮西ドイツ放送交響楽団、シュトゥットガルト・ノイエ・ヴォーカルゾリステン他〔輸・Kairos〕
ラッヘンマンは禅や西田幾多郎に傾斜し、イライラと無縁でおれぬ疎外の音楽からさびた音楽へ変化してきた。1999年の《今》ではついにテキストに西田幾多郎を用い、彼の「永遠の今」の時間哲学を音楽化しようとする。
こんな調子で巻末のガイドだけで150点以上の録音を紹介している。