服部真里子『遠くの敵や硝子を』を読む

 服部真里子『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房)を読む。著者2冊目の歌集。読み始めて岡井隆とか塚本邦雄あたりのエピゴーネンかと思ったが、途中まできてお父さんの死の前後を詠んだあたりから、私が服部の語法に慣れたのか、いいじゃないかと思い始める。

鳥葬を見るように見るあなたから声があふれて意味になるまで
父の髪をかつて濯(すす)ぎき腹這いの光が河をさかのぼる昼
息あさく眠れる父のかたわらに死は総身に蜜あびて立つ
柘榴よりつめたく死より熱かったかの七月の父の額よ
おびただしい黒いビーズを刺繍する死よその歌を半音上げよ
うす青き翅もつ蝶が七月の死者と分けあういちまいの水
斎場をとおく望んで丘に立つ風のための縦笛となるまで
眼鏡というひとりのための湖を父の顔から持ち去る夜明け
鶏頭がひとつの意志を顕たしめて君よその火を見せてくれるか
神を信じずましてあなたを信じずにいくらでも雪を殺せる右手
地下鉄のホームに風を浴びながら遠くの敵や硝子を愛す

 

遠くの敵や硝子を (現代歌人シリーズ24)

遠くの敵や硝子を (現代歌人シリーズ24)