谷川由里子『サワーマッシュ』(左右社)を読む。谷川は第1回笹井宏之賞大森静佳賞の受賞者。笹井宏之賞は書肆侃侃房が主催する短歌新人賞で、夭折した歌人笹井宏之を記念して作られた。大賞のほか、選考委員が選ぶ賞があり、選者の大森静佳が谷川を選んでいる。
何首か引く。
ユニホームを着るのが好きだ似合わないユニホームならなおさらいいな
芍薬をきみにあげたい芍薬は、大きい、鮮やか、花びら、たくさん
かまぼこの形の舟になれるならみるべきものはへんな夢だよ
風に、ついてこいって言う。ちゃんとついてきた風にも、もう一度言う。
木が根から抜かれるところ見たあとに声変わりするほど深く寝た
鎧には鎧を重ねられなくて新しいスプーンで召し上がれ
私には谷川の短歌が分からない。巻末の「解説」を選考委員の大森静佳が書いている。
全身にくる会いたいという気持ち山ですという山の力
バックホーが力の限り掘り返す明日の土に頬ずりしたい
心臓を心臓めがけ投げ込むとぴったり抱きしめられる雪の日
自分が心を持っていることが、うれしい。そして、誇らしい。愛の疾走感に満ちたこの歌集を読むと、そんな気持ちがこみあげてくる。愛は、会いたいと思う誰かにたいしてだけではなく、山やバックホーを含む世界全体にたいして注がれ、そして山やバックホーの側もまた、不思議と命をもって躍動している。ときめく心が、自分のからだをはみだして外へ外へと踊りだしてゆく。そんな勢いのなかで、一首一首が、ぴちぴちと立ちあげられる口語のリズムによって、小さな渦巻きのように動的に輝いているのだ。
やはり私には分らない。