『東京スリバチ地形入門』を読んで

 皆川典久+東京スリバチ学会『東京スリバチ地形入門』(イースト新書Q)を読む。スリバチ地形とは、東京の山の手の台地に見られる窪地を指している。その武蔵野台地には支流である小さな川がいくつもあり、その一番の上流から谷が始まっている。そこを「谷頭(こくとう)」と呼び、窪地の三方を丘が囲んでいる。それを皆川たちは「二級スリバチ」と呼び、本来開けていた川下が何らかの理由でふさがれて四方が丘となっている窪地を「一級スリバチ」と呼んでいる。
 一級スリバチの例として、新宿区荒木町のあたりと、渋谷区初台あたりが紹介されている。航空写真とそれに書きこまれた図解を見ればそのことがよく分かる。
 スリバチ地形を見ていくと、歴史的な成り立ちや、その土地の文化などが見えてくる。大久保や池袋、弥生2丁目、等々力渓谷の謎、各地のパワースポットなどがおもしろく紹介される。このあたりまでの約半分を皆川会長が書いていて、残りの半分を会員の11名が分担して書いている。
 東京の階段を見て歩いている人もいる。クランク階段やジグザグ階段、扇型アプローチ階段など、写真入りで紹介されているのもおかしい。暗渠を専門に調べている会員もいる。阿佐ヶ谷駅周辺にもやんわりとした窪地が広がっている。阿佐ヶ谷には37年前まで住んでいたがまったく気づかなかった。天沼弁天池から流れ下っていた桃園川が作った窪地だという。駅南側の飲み屋街一番町は昔は溝だったと阿佐ヶ谷出身の人が教えてくれた。「幽霊はスリバチに出る」という章もおもしろかった。「怪談牡丹灯篭」や「真景累が淵」、「怪談乳房榎」も舞台はスリバチだという。
 なかなか面白い本だった。ちょっと中沢新一の『アースダイバー』を思い出した。この本を持って、紹介されている東京の各地を歩いてみたい気もした。一人ではなかなか行動しないだろうが。


東京スリバチ地形入門 (イースト新書Q)

東京スリバチ地形入門 (イースト新書Q)