小林紀晴『写真で愉しむ 東京「水流」地形散歩』を読む

 小林紀晴『写真で愉しむ 東京「水流」地形散歩』(集英社新書)を読む。写真家である小林が大型カメラを担いで、東京の河川を歩き回った記録だ。小林は写真家でありながら『メモワール』とか『ニッポンの奇祭』など興味深いエッセイを書いている。
 本書はちょっと中沢新一『アースダイバー』に似ている。が、中沢とは違って地層を読んで古代史に思いをはせるとまでは踏み込まなくて、常識的に想像できるところまでにとどまっている。それでは退屈かといえば、そんなことはなくて、河川が作った地形や東京の歴史を表面的にではなく掘り込んでいる。
 主なところにデジタル標高地形図が引用されていて、高低差が明暗で表されているので普通の地図と違って立体感が想像できる。赤羽付近の日暮里崖線とか国分寺駅付近の国分寺崖線ハケとも呼ばれる)、ヒトデのような谷が分かる四谷あたり、杉並区や中野区を東西に流れる神田川善福寺川、小林はそれらの流れに沿って歩き、高低差の露出しているところを撮っている。新宿駅近くから流れ下る渋谷川新宿御苑を通って渋谷駅近くは暗渠になり、天現寺橋付近で古川と名前を変えて東京湾へ流れ下る。
 本書には共著者がいて、地図研究家の今尾恵介が科学的な解説を付け加えている。こんな地味な本が意外に面白かったのは小林の語り口の上手さだろう。いや、小林の好奇心の持ち方が面白いのかもしれない。続巻、続々巻が書かれればいいのに。
 ちょっとだけ不満は、大型カメラ(シノゴ、4×5)で撮っていながら、新書なので写真が小さく写真の肌理も粗いこと(写真分解の線数の問題)ともう少し詳しい普通の地図も付けてほしかった。口絵に数ページカラー写真を付けてくれても良かったのに。
 国分寺崖線を示した国分寺駅付近の写真を引用する。