小林紀晴『ニッポンの奇祭』を読む

 小林紀晴『ニッポンの奇祭』(講談社現代新書)を読む。小林は長野県諏訪地方出身の写真家で、小さいころから諏訪大社御柱祭に触れてきた。諏訪大社は上社と下社からなり、そのそれぞれに2つの社がある。つまり4つの社があって、その4隅に柱を立てる。その柱つまり御柱は6年に1度立て替えられる。柱は長さ16〜17メートル、重さは10トンもある。それを山から神社まで引き下ろす行事だ。危険な祭りとしても知られ、毎回けが人が出る。その祭りを小さな時から体験してきた小林が、全国の奇祭を取材して回った記録だ。ここで奇祭とは稲作以前、縄文の文化を残している祭りと定義される。
 本書は4部構成で、沖縄〜九州、関東、東北、長野県の16の祭りが取り上げられている。それが無味乾燥の記録的なものではなく、小林の主観的な見方を色濃く書き込んでいるまさに体験記なのだ。
 最後の16番目に取り上げられているのは「御射山祭/長野県富士見町」で、小林は東京から1歳半を過ぎた娘を特急あずさに乗せて連れ帰る。「娘はまだ乳離れができておらず、私と二人だけで遠出するのは初めてのことだった」。そのわけは小林が諏訪大社の氏子だからというものだった。妻の同意を得られないままなかば強引に連れて行った。娘を氏子にするために。あずさの車中で娘は2時間半のほぼすべて泣き続けていた。
 面白い読書だった。小林は写真家でありながら筆が立つのだ。以前読んだ『メモワール 写真家・古屋誠一との二〇年』(集英社)でそのことを知った。自殺した妻の遺体をすぐさま撮影し、それから何冊も妻の写真集を編集し続ける古屋誠一を追求している伝記に似たドキュメンタリーだった。


小林紀晴『メモワール』を読む(2013年4月20日