塩入さんのgallery review

 現代美術のウォッチャー&コレクターの塩入敏治さんが、現代美術に関するギャラリー・レビュー gallery reviewをメールマガジン形式で定期的に発信している。塩入さんの許可を得て、ここにそのメルマガを再録した。

Gallery Review 03111208
きょうは3.11、あの日を想いだしてはレビューを書いて・・・シオイリです。


菅木志雄@小山登美夫ギャラリー
<03/10/12〜04/14/12>
もの派を代表する作家のひとりとして、初期のランド・ワークを記録した写真作品にはじまり、98年、美術館に展示されたサイトスペシフィックな作品、そして最近になって制作された作品などから構成されている。個体としてのものから、集まることで表象される連続やラインに意識が向かうようになったという作者。さまざまな矩形の不連続な繋がりによる空間をとりまくインスタレーションを発表。また、ものを見る眼は内と外におよび、丸太に小石がくまなく突き刺さった作品なども発表されている。


塩田千春@KENJI TAKI GALLERY/TOKYO
<03/08/12〜04/21/12>
ベルリンに居住しながら日本での発表を精力的に行なっている。丸亀市現代美術館における展覧会がまじかだ。個展会場では、ワイヤーと紐をもちいたインスタレーションが、そこに巣ぐうかのような強烈な存在感をしめしている。記憶をいまに照らし合わせ、個人的体験を普遍的なものへと転換する。作品を目のまえに、みずからの身体をもって感じられる理由でもある。《存在のあり方》という、まさに題名どおりの作品をみてのことだ。とりわけ横たわる人体フォルムが、重く感じられる。


渡辺 豪@1223現代絵画
<03/04/12〜05/06/12>
CGによるフォルムに実写画像をかさねる。どこまでが虚像でどこまでが実像なのか、その不明りょうな境界域から感じる奇妙な感覚。今回展示されているのは、ポートレート、本などをモチーフにした平面作品と、すでに発表したことのある2点の映像作品からなる。《フェイス》と題したポートレートは、眼と唇がリアルに感じられ、虚構とは思えない新鮮さに惹きつけられる。逆に、タイトルが読みとれる本をモチーフにした作品は、題名から空想される世界に想像力がはたらく。


ジェレミー・ディッキソン@小山登美夫ギャラリー6F
<03/10/12〜04/14/12>
ロンドンを拠点に制作をしている英国人作家。廃品となったミニカーや鉄道模型などをコレクションしながら、そこからインスパイアーされるイメージを絵画や立体で表現する。塗料が剥げかかったり、タイヤや窓ガラスが壊れたミニカーを、階層状につみかさねたものや、びっしりと組み合わせ、その表層部分を描いたものなど、視覚対象としてミニカーをたのしむ作者のまなざしが、あふれんばかりに表現されている。それは、観るひとによって疑似体験ともなり、つよく印象にのこる。


ティーブン・G・ローズ@MISAKO & ROSEN
<03/04/12〜04/15/12>
壁を埋めつくすように展示された油絵、ホワイト・キューブ以前の展示方法だ。モチーフは、ある銀行家の家系に実在した人物たちの肖像画という。フォルムが消えて、その存在すらも定まらない肖像画は、まさに幽霊でもあるかのようだ。ユダヤ人銀行家の家系に育ったアビ・モーリッツ・バーンブルクという美術史家をテーマにした発表は、奇怪な箱にとじこめられた映像と、たくさんの肖像画からなるインスタレーションでまさにホーンテッド・ハウス。破れた小切手が肖像画についている。


フ・ユ&ジャ・ハイキン@トーキョーワンダーサイト本郷
<03/10/12〜04/29/12>
レジデンスで制作された作品を発表する。《トーキョー・ストーリー》と題した企画展は、内外から招聘されたアーティストによる作品が発表され、
見ごたえがある。サウンドと映像による作品を発表した中国人作家は、4枚のスクリーンを宙づりにし、両面に投影する。人ごみと喧騒の東京を象徴するのは、モニターのノイズと抽象的画像。裏面には、桜の枝が毛筆によるストロークを暗示するように、伸びては花をつける。シンボライズされたイメージが印象的だ。具象と抽象のはざ間の表現が生きる。


イ・ブル@森美術館《イ・ブル展》
<02/24/12〜05/27/12>
韓国を代表する現代アーティストという。立体を中心とした作品が、最初から最後までつづき圧巻だ。モンスターをモチーフのぶきみなオブジェ。草間彌生を連想させるインフィニティがテーマの作品。そしてアニメから生まれたようなサイボーグをテーマにした立体。クリサリスをモチーフに作品では、おもわず『1Q84』のエアー・クリサリスを連想してしまた。
最後は大きな物語りへとつづく。韓国の現状を考えると、大きな物語りは終わっていないのかとも思う。これは観ておいてもよい展覧会だ。


余談・・・


小山登美夫ギャラリーでは菅木志雄のトークを聴いてきました。もの派の作家本人から話を聴くのははじめてで、たいへん有意義でした。折りしもロスアンゼルスのブラム&ポーギャラリーでは、もの派10名の(そのうち4名は故人)の展覧会が開催されていて、国際的注目を集めているそうです。《具体》についで《もの派》が評価させることの意義は大きく、戦後の美術史を文脈化するといえますね。その菅さんですが、お話を聴いて、《状況》や《周囲の環境》との繋がりを模索する思考をつよく感じるとともに、《構造》的に対象を見るとい説明では、構造主義をも連想してしまいました。もの派は語るとつきないですね。

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