自慢の一品


 自慢の一品である。何の変哲もないフォークだが。
 30年前頃、虎の門のスパゲッティ屋ハングリータイガーに時々行っていた。ここのバジリコが好物だった。オリーブオイルがたっぷり使われていた。このビルの上には「室内」を発行していた工作社があった。工作社の社長は辛口の評論家山本夏彦だ。工作社の求人に応募した人が昼近く工作社へ面接に行くとビルの玄関から行列ができていた。工作社への応募者がこんなにいるのかと思ったら、ハングリータイガーで昼飯を食べる客だったという。
 この店で使われていたフォークがこれだった。分かりにくいかもしれないが、パスタを絡めやすいように上側に波形がついている。フォークの先も長い。パスタ専用のフォークなのだ。刻印を見るとノリタケだった。虎の門交差点の角にあるノリタケショールームを訪ね、このフォークがほしいと言ったがなかった。カタログを調べて後日取り寄せてもらった。それがこの一品なのだ。高い品ではなかった。おそらく業務用なのだろう。
 ささやかな自慢の一品である。