社会

色川武大『うらおもて人生録』がおもしろい

毎日新聞に「昨日読んだ文庫」というコラムがあり、文化放送ディレクターの首藤淳哉が『うらおもて人生録』を取り上げている(2015年11月15日)。 失敗を重ね、ほとほと自分に嫌気が差したときに決まって手に取る1冊が色川武大著『うらおもて人生録』(新潮…

東京の海抜(その2)

東京中心部の海抜。 東京メトロ半蔵門線・銀座線・千代田線 表参道駅:海抜33.7m 都営地下鉄大江戸線 国立競技場駅:海抜24.9m 東京メトロ千代田線 根津駅:海抜5.5m 東京メトロ日比谷線 小伝馬町駅:海抜4.7m 東京メトロ日比谷線 秋葉原駅:海抜4.6m 都営地…

仕事の極意

私も20歳からもう半世紀近く働いてきた。その間に身につけた仕事の極意を公開したい。 まず重要なモットーを紹介する。 ・仕事に関しては「面倒」と言わない。 仕事というものは総て面倒なものなのだ。あえて面倒なことをして対価を得ている。仕事に対して面…

須藤靖のエッセイ「「青木まりこ」現象にみる科学の方法論」を読んで

東大出版会のPR誌『UP』12月号に須藤靖の「「青木まりこ」現象にみる科学の方法論」というエッセイが載っている。不定期連載の「注文の多い雑文」の32回目だ。なおこの「注文」は「ちゅうぶん」と読み、章末に注がたくさん列記されているのでこの題名になっ…

上原善広『被差別のグルメ』を読む

上原善広『被差別のグルメ』(新潮新書)を読む。以前読んだ同じ著者の『被差別の食卓』の続編的な書。有意義でとても興味深い。上原は自分が被差別部落=同和地区出身であることを隠すことなく、そのことを前向きに語っていく。作家の中上健次にならって同…

東京下町の海抜

東京下町の海抜。 東京メトロ日比谷線 小伝馬町駅:海抜4.7m 東京メトロ日比谷線 秋葉原駅:海抜4.6m 都営地下鉄新宿線 岩本町駅:海抜3.5m 東京メトロ日比谷線 人形町駅:海抜3.5m 墨田区両国4丁目(京葉道路沿い):海抜1m 墨田区立花1丁目 都立公園:海…

単純作業は女性に向いているのか?

渡辺淳一が単純作業は女性に向いていると言っている。渡辺淳一『わたしの女神たち』(集英社文庫)から、 もう大分前ですが、ある時テレビを見ていると、将棋の升田九段が出てきて、「女はだめだ。女はものを創り出す創造力がない」というようなことを言って…

最相葉月『セラピスト』を読む

最相葉月『セラピスト』(新潮社)を読む。最相は以前『絶対音感』を読み、とても感心したが、本書はさらに優れた仕事だと言える。 最相が精神科医中井久夫によるカウンセリングを受けるところから始まる。中井は最相に絵画療法を行う。白い紙に中井が縁を枠…

変わったメッセージ

お願い 過日、男性用トイレにおいて、悪質な「いたずら」が発生いたしました。 個室の便器にペーパーを大量に詰まらせ、 故意に使用不能にし、男性のお客様に 女性用トイレの使用を促すものです。 そうして騒ぎをおこし、その様子を楽しむ愉快犯の可能性が考…

岩波ブックレット『非核芸術案内』を読む

岡村幸宣『非核芸術案内』(岩波ブックレット)を読む。ブックレットシリーズなので64ページしかない。副題が「核はどう描かれてきたか」。岡村幸宣は原爆の図丸木位里美術館の学芸員。 4つの章で構成され、「原爆を表現する」「第五福竜丸の被ばくと原発」…

中沢新一対談集『惑星の風景』を読む

中沢新一対談集『惑星の風景』(青土社)を読む。1999年から最近までの対談で、今日の時点から見ても内容が古びていないものを選んで編んだという。中沢初めての対談集だ。 対談相手は、レヴィ=ストロース、ミシェル・セール、ブルーノ・ラトゥール、吉本隆…

上野千鶴子『身の下相談にお答えします』を読む

上野千鶴子『身の下相談にお答えします』(朝日文庫)を読んだ。朝日新聞の土曜日に掲載された人生相談「悩みのるつぼ」の上野の回答をまとめたものだ。「悩みのるつぼ」は4人の回答者が交替で回答している。上野のほかは、車谷長吉、岡田斗司夫、金子勝だ…

佐高信『戦後を読む』を読む

佐高信『戦後を読む』(岩波新書)を読む。副題が「50冊のフィクション」というもの。すべて日本の小説で、小説を素材に戦後社会を論じている。ただ、これが出版されたのが1995年で、ほぼ20年前になる。発行直後に読み、今回久し振りに読み直した。 やはり20…

林典子『人間の尊厳』を読む

林典子『人間の尊厳』(岩波新書)を読む。標題の前にフォト・ドキュメンタリーと付されている。林は報道カメラマンだ。1983年生まれ、大学在学中の2006年、アフリカのガンビア共和国の新聞社で写真を撮り始める。その5年後早くも名取洋之助写真賞受賞、201…

岡田斗司夫が教える男の見分け方

朝日新聞の連載コラム「悩みのるつぼ」で岡田斗司夫が大人の見分け方を教えている(4月5日)。これがとても説得力がある。 相談者は14歳の女子中学生で、塾の大学生の7歳年上の先生が好きになった、先生が塾を辞めてしまうので、その前に告白したほうがい…

『半藤一利と宮崎駿の腰抜け愛国談義』を読む

『半藤一利と宮崎駿の腰抜け愛国談義』(文春ジブリ文庫)を読む。気持ちの良い読書だった。こんな嫌な世に少し元気をもらった気がする。 宮崎駿が誰かと対談をと言われて指名したのが半藤一利だった。半藤は『となりのトトロ』と『紅の豚』しか見ていないと…

上野千鶴子の講演を中止した山梨市市長

山梨市が18日に予定していた上野千鶴子の講演を中止したと、朝日新聞が伝えている(3月15日)。山梨市が昨秋上野千鶴子に講演を依頼したが、2月に初当選した望月清賢市長が反対して中止を決めたという。上野の講演は「介護や、最後までひとりで生きる心構…

若者はしばしば貧しい

山崎努が『俳優のノート』(文春文庫)で若い頃の貧しかった記憶を書いている。 俳優座養成所の3年間は楽しかった。 所長の杉山誠先生の演技指導は、生徒の自主性を育てるものだった。 (中略) 授業でチェホフ『結婚申込み』の求婚者を演った時、昂奮し過…

最近の気になった新聞記事から

最近の気になった新聞記事を備忘録代わりに記しておく。電子書籍に関する配信契約をAmazonなどと結んだ出版社KADOKAWAの角川歴彦会長の言葉が紹介されている(朝日新聞2013年11月12日夕刊)。 1年以上にわたったアマゾン、グーグル、アップルなどとの契約交…

『食の戦争』を読んで

鈴木宣弘『食の戦争』(文春新書)を読む。副題が「米国の罠に落ちる日本」というもの。カバーの袖の惹句から。 いま、世界で「食の戦争」が進行している−−。遺伝子組換え作物が在来作物を駆逐し、ごく少数の企業が種子の命運を一手に握る。金の論理で「食」…

なだいなだの最後の辛口エッセイ「最後の失言」

6月6日、なだいなだが亡くなった。なだは筑摩書房のPR誌『ちくま』に長年辛口のエッセイ「人間、とりあえず主義」を連載していて、私も愛読していた。同誌には佐野眞一もエッセイを連載していたが、橋下徹に関する週刊朝日問題で連載を降りたので、辛口エ…

山口昌男の『本の神話学』と中央公論新社

毎日新聞に「昨日読んだ文庫」というコラムがある。ここで坪内祐三が山口昌男の『本の神話学』(中公文庫)を取り上げている(6月9日)。坪内はこの本を高校生のときに初めて読み、以来10回近く通読しているという。部分再読した箇所なら20以上ある。 『本…

インセストタブーは人工の制度か

6年ほど前にインセストタブーについて書いたことがあった。インセストタブーとは、Yahoo百科辞典によれば、 インセスト・タブー incest taboo ある範疇(はんちゅう)の親族との性関係や結婚を禁ずる規則をいう。あらゆる人間社会においてみられる。基本家…

『原発を作らせない人びと』を読む

山秋真『原発を作らせない人びと』(岩波新書)を読む。副題を「祝島から未来へ」といい、山口県の上関原発建設に粘り強く反対し続けている祝島の人々とその運動のルポルタージュだ。これがすばらしかった。 反対運動の報告書なんて固いばかりで面白いものは…

図書館の利用法

日本経済新聞電子版に「丸善が4カ月の取引停止 国立美術館の閲覧室運営辞退で」という見出しのニュースが掲載された(4月25日)。それによると、 図書館の運営支援を手掛ける書店大手の丸善(本社・東京)が東京・六本木の国立新美術館から受注した資料閲…

『おどろきの中国』は本当におどろきの書だった

講談社現代新書の『おどろきの中国』は橋爪大三郎と大澤真幸、それに宮台真司という正に最前線の社会学者たちの鼎談をまとめたもの。これがすこぶるおもしろかった。 3人は一昨年の秋に中国を旅行して回った。旅行中、何人もの中国の社会学者たちと議論し、…

私の提案

以前、硬貨巻きの仕事をしたことがある。バラの硬貨を50枚ずつ束ねて棒状にする仕事だ。棒状にするのは専用の機械でするのだが、袋に入っている硬貨をその機械の口まで持ち上げて入れるのは人の手でしなければならない。その機械の口まで1メートルほどあろ…

須藤靖のエッセイ「不ケータイという不見識」がおもしろい

須藤靖が東大出版会のPR誌『UP』12月号に「不ケータイという不見識」と題するエッセイを書いている。これは連載記事「注文(ちゅうぶん)の多い雑文」のその21回目になる。須藤は宇宙論・太陽系外惑星の研究者で、しばしば難解な内容も多いのだけれど、今回…

原武史『レッドアローとスターハウス』を読んで

原武史『レッドアローとスターハウス』(新潮社)を読む。副題が「もうひとつの戦後史」で、日本政治思想史学者原武史が、西武の特急レッドアロー=西武鉄道沿線、平面プランがY字型の賃貸住宅スターハウス=公団住宅を舞台に選んで、小さな世界の戦後政治思…

オオカミの護符があった

以前、小倉美恵子『オオカミの護符』(新潮社)を紹介した。御嶽山のオオカミの護符を調査し、そのいわれ=オイヌさま=山犬=オオカミ信仰の源流を突き止めた興味深い書だった。そのオオカミの護符に偶然ながら巡り会った。 先月、「アートプログラム青梅20…