最近の気になった新聞記事から

 最近の気になった新聞記事を備忘録代わりに記しておく。電子書籍に関する配信契約をAmazonなどと結んだ出版社KADOKAWA角川歴彦会長の言葉が紹介されている(朝日新聞2013年11月12日夕刊)。

 1年以上にわたったアマゾン、グーグル、アップルなどとの契約交渉は「極めてハードだった」。直面したのは、米国流の市場の論理だ。「出版を続けるのが難しいほど厳しい価格条件」の提示から始まり、作品を「ブラックボックス」状のサーバーに預かって無限に利用できるような権利なども求められたという。
 「彼らにとって大事なのは利益と、消費者から訴えられないこと。日本の出版社が大切にする作家との信頼関係など理解しない」(中略)
 角川会長は「米国の音楽産業の衰退を見てほしい」と話す。昨年の米国の音楽ソフトの売上高は、日本に抜かれ2位に転落(国際レコード産業連盟調べ)。アップルを代表とする巨大IT産業が流通を一手に握り、街のレコード店が次々廃業した結果、「ボブ・ディランすら、99セントでバラ売りされる消耗品になってしまったからだ」。
 「消費者が得する『チープ革命』と言われるが、本当に得をしているのは流通を握る巨大IT企業。著作権者は貧しくなる一方だ」。

 つぎに、作家の高橋源一郎が「論壇時評」に特定秘密保護法の危うさについて書いていた(朝日新聞2013年12月19日)。

 ある若者が、デモに行くという友人と、その後で映画を見ようと約束した。その若者が、友人が交じったデモ隊の列と並んで歩道を歩いていた時、突然、私服警官に逮捕された。理由は公務執行妨害だったが、若者にはまったく覚えがなかった。後に若者は検察官から「きみが威圧的態度をとり、警官は恐怖を感じたからだ」といわれた。そういえば、私服警官らしい人間と目があったことは思い出したが、それが公務執行妨害にあたるとは夢にも思わなかった。
 留置場に入った若者は、そこで、1年近く裁判も始まらずにただ留め置かれているという窃盗犯に出会った。貧困から何度も窃盗を繰り返した男は、1件ずつゆっくり起訴されていた。警察・検察の裁量によって、裁判が始まる前に、実質的には刑罰の執行が行われていたのだ。
 「それって、人権侵害じゃないの」と若者がいうと「わからない。法律なんか読んだことがない」と男はいった。若者と男の話を聞きとがめた看守が、房の外から、バケツで2人に水をかけた。
 「うるさい黙れ、犯罪者には人権なんかないんだ」
 極寒の房内は室温が氷点下まで下がっていた。濡れた体を震わせながら、若者は、犯罪者の人権が軽んじられる国では、人権そのものが軽んじられるだろうと考えていた。それは、本や理論で学んだ考えではなく、経験が彼に教えたものだった。その若者が半世紀近くたって、いまこの論壇時評を書いている。