相川俊英『奇跡の村』を読んで

 相川俊英『奇跡の村』(集英社新書)を読む。過疎化によって消滅するのではないかと噂されている地方自治体。その中でよく健闘している3つの村や町を訪ねて、それらの秘密を解き明かしている。
 最初に取り上げられたのが長野県下伊那郡下條村飯田市よりさらに南に下ったところの過疎の村だ。私の生まれ育った村からも遠くなく、タレントの峰竜太の出身地。峰竜太は私の友人の従兄でもある。また昔カミさんが勤めていた区立図書館の同僚で下條さんという皮肉のきつい人がいたが、その人の出身地でもあった。
 下條村は人口約4,000人の村だが、1998年〜2002年の5年間平均出生率が長野県トップ、現在でも全国平均を上回るトップクラスの出生率を誇っている。それはカリスマ村長の指導による役場職員の意識改革や、村民の村政参加など地道な働きの結果によるものだった。国からの助成を受けないで、独自に自主財源で作った集合住宅で若者たちを集めることにも成功した。
 次に取り上げたのは群馬県南牧村で、ここは全国で最も消滅の可能性が高い村と言われる。人口2,200人余で高齢化率58%余、75歳以上の後期高齢者は村民の40%にのぼる。かつての村の産業は養蚕や採石、和紙、林業、コンニャク栽培などだった。それらが現在みな斜陽と化している。しかし空き家になった住宅に移住者を募集したところ、集まった若い移住者たちがネットワークを作り、新しく花卉栽培を初めてそれが成功した。村は現在独自の地域活性化に取り組んでいる。
 3つ目の例が神奈川県の旧藤野町、合併して現在は相模原市緑区の一部となっている。ここもよそから移住してきた女性が町議選に立候補し、2度目の選挙で町議に当選してから変って来た。県が提案した「ふるさと芸術村」構想に賛同し、アートによるまちづくりで活性化した。さらに廃校になった元小学校を利用してシュタイナー学園を受け入れるなどした。
 いずれの事例も優れた成功例として括目に値するだろう。読んでいて気持ちのよいものだった。ただ、少々気になる点がないではない。
 やはり2013年のベストセラーで評判の良かった藻谷浩介とNHK広島取材班執筆の『里山資本主義』(角川oneテーマ新書21)にも共通することだが、テレビ局とかジャーナリスト(相川は地方自治ジャーナリストと略歴にある)の方法の問題だ。目玉になる何人かの人物に取材し、その知見を元に短絡的に結論を出すと言うようなきらいがある。それが学者の仕事になれば、もっと統計的なデータを集めて分析し、本書のような少数の核となる人物にすべてを語らせるという方法は採らないだろう。旧藤野町について中心的に語った中村賢一は、市町村合併に反対して町長選に立候補して敗れた。その件で恩人の町長とはとは袂を分かつことになり、その後も言葉を交わさずにいるという。著者の相川はその町長と会ってはいないようだ。本書が一面的な見方しかしていないのではないかとの懸念が払拭できないのもそんなところによるものだ。