岩波ブックレット『非核芸術案内』を読む

 岡村幸宣『非核芸術案内』(岩波ブックレット)を読む。ブックレットシリーズなので64ページしかない。副題が「核はどう描かれてきたか」。岡村幸宣は原爆の図丸木位里美術館の学芸員
 4つの章で構成され、「原爆を表現する」「第五福竜丸の被ばくと原発」「チェルノブイリ以後の世界」「『3.11』後の非核芸術」となっている。
 まず丸木位里丸木俊の有名な「原爆の図」が紹介される。そして実際に原爆を体験したり、直後に取材した福井芳郎、深木経孝らの図版が取り上げられる。ついで、画家の古沢岩美、山下菊二、山本敬輔、増山勉、鶴岡政男高山良策上野誠らの美術作品が示される。図版が小さいのが惜しまれる。さらに中沢啓治はだしのゲン』、丸木位里の母親である丸木スマ丸木位里の妹大道あやの作品も見ることができる。スマの絵は生前発表することはなく、没後発見されたものだという。大道あやは絵本『ヒロシマに原爆が落とされたとき』(ポプラ社)を描くが、完成した絵を最後に塗りつぶしている。
 第五福竜丸については、ベン・シャーン岡本太郎水木しげるらの作品が参照される。
 チェルノブイリ以後に関しては、貝塚浩、本橋成一(写真)、こうの史代の『夕凪の街』、石内都の写真、ジミー・ツトム・ミリキタニ、最後にChim↑Pomまで取り上げられる。
 「3.11」後の非核芸術の項は充実している。やはりChim↑Pomから始まり、風間サチコの優れた木版画、壺井明、増田常徳らの絵画作品、黒田征太郎池田龍雄ヤノベケンジ、安藤栄作などの作品が並び、写真家新井卓の飯舘村で撮影した放射性のヤマユリの写真で締められる。
 大きな問題をコンパクトにまとめた優れた仕事だと思う。これを発展させて、新潮社の「とんぼの本」シリーズか、平凡社の「コロナブックス」シリーズから出版してくれたらと思うが、保守の新潮社に期待するのは難しいか。


非核芸術案内――核はどう描かれてきたか (岩波ブックレット)

非核芸術案内――核はどう描かれてきたか (岩波ブックレット)