ギャラリーQの李晶玉展を見る

 東京銀座のギャラリーQで李晶玉展が開かれている(7月9日まで)。李は1991年東京生まれ、2018年に朝鮮大学校研究院総合研究科美術専攻課程を修了している。2018年にeitoeikoで初個展、昨年はここギャラリーQで、今年はすでに原爆の図丸木美術館で個展を行っている。そのほか、「VOCA展2020」にも選ばれている。

 展示の中心は「Ground Zero」と題された左右450cmの大作だ。遠く中央に富士山が描かれ、前面におそらく東京が広がっている。東京の空に同心円が描かれ、その上に日の丸が描かれている。日の丸と書いたが、タイトル「グラウンド・ゼロ」つまり「爆心地」とすれば日の丸に見えるものは原爆ではないだろうか。先の大戦で東京に原爆が投下された可能性はゼロではなかっただろう。それを再現しているかのようだ。

 「Enola Gay」と題された飛行機のコックピットを描いた作品もある。これこそ広島に原爆を落とした爆撃機の名前だ。

Ground Zero

Ground Zero

Ground Zero(部分)

Enola Gay


 今年李が個展を行った丸木原爆の図美術館の学芸員岡村幸宜が岩波の『図書』6月号に「輪郭線」と題して李晶玉について書いている。

 

 (「Ground Zero」は)かねて影響を受けていたロラン・バルトの『表徴の帝国/記号の国』における「いかにもこの都市は中心をもっている。だが、その中心は空虚である」という考察をもとに、東京における「空虚な中心点」と爆心地の「空白」を重ねあわせた都市鳥観図だった。

 

 ロラン・バルトの「東京の空虚な中心点」とは皇居のことである。また岡村は李について書く。

 

 (李の)丹念に思考の跡が記された創作ノートの片隅に「“暫定アメリカ人”の日本の在日」と書きとめられていたことは、見逃せなかった。戦後半世紀を経た日本社会は、米国の政治的・文化的影響を多分に受けている。その環境で生まれ育ったリアリティと、「在日朝鮮人」というアイデンティティのあいだで、ときに宙吊りになり、ときに引き裂かれる複雑な感覚。それは彼女にとって、表現の根幹にかかわる重要な問題だった。

 

 在日朝鮮人3世という複雑な立ち位置は、李に自分の存在について深い思考を強いてきただろう。それが彼女の作品を優れて強い表現に到達させている。無反省の幸福な人生は優れた作品とは無関係だろう。

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李晶玉展「SIMULATED WINDOW」

2022年6月27日(月)―7月9日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)日曜休廊

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ギャラリーQ

東京都中央区銀座1-14-12 楠本第17ビル3F

電話03-3535-2524

http://www.galleryq.info