東京上野桜木のSCAI ザ・バスハウスで和田礼治郎展が開かれている(7月9日まで)。和田は1977年広島県生まれ、2000年に広島市立大学芸術学部美術学科彫刻専攻を卒業、2002年同大学大学院芸術学研究科博士前期課程彫刻専攻修了、2008年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程彫刻専攻を修了し博士号(美術)を取得している。現在ベルリン在住。
ギャラリーにはとても奇妙な作品が展示されている。ギャラリーで配布しているテキストとともに作品を紹介する。
中央に置かれた真鍮製の骨組みと台は、和田が居住するドイツのフリーマーケット市場でごく一般的に見られるブースを実物大で抽出したものです。MARKETと題された黄金のフレームは、枠組みだけで幌もなく、また売り物も見当たらず、むしろそれらの不在が強調されているようです。
実物のモンキーバナナを鋳型にとった、ブロンズ製のオブジェが頭上に吊られているのが見えます。むさぼられ、枯れ果てた茎の様子と、一本だけ残った果実の神々しさとのコントラストが印象的です。本作には人間の差別意識と優越感に対する批判が込められていると和田は言います。バナナはかつての奴隷貿易とプランテーションの象徴、そしてアートマーケットの中では消費し尽くされて来た記号 ―― 茎の先には、まだもぎとられていない禁断の果実が垂れ下がっています。
UNLICENSEDは、路上の観察から着想を得た作品です。前者は、スクラップされたアルミニウムに損傷を与え、さらに加工したものです。凹凸の目立つ鏡面には、映し込まれた像がまるで宇宙空間に引き込まれて消えていくような現象が立ち上がり、破壊と暴力の痕跡の狭間で、鑑賞者の知覚を揺さぶります。
窓ガラスの前に置かれた透明なFRUIT MARKETは、鑑賞者の目を捉えることでしょう。果物籠の純粋な構造美にフォーカスした本彫刻は、フルーツマーケットというタイトルに反し、空っぽで透き通ったガラスの外観が逆説的にフルーツの豊かな色彩をも呼び起こすようです。日常の儚さや非物質性を示しつつ、それらと対照する楽園的なイメージが対極を成す本作は、存在/消失、あるいは聖/俗といった両極性の内包、その絶え間なる反転運動が常に喚起される、和田彫刻の核心を端的に現しているともいえるでしょう。
ほかにも不思議な作品が展示されている。これらの面白さが私には理解できなかった。
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和田礼治郎展「Market and Thieves in a Cloister」
2022年5月31日(火)―7月9日(土)
12:00-18:00(日曜・月曜・祝日休廊)
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SCAI ザ・バズハウス
東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
電話03-3821-1144
https://www.scaithebathhouse.com/ja/