図書館の利用法

 日本経済新聞電子版に「丸善が4カ月の取引停止 国立美術館の閲覧室運営辞退で」という見出しのニュースが掲載された(4月25日)。それによると、

 図書館の運営支援を手掛ける書店大手の丸善(本社・東京)が東京・六本木の国立新美術館から受注した資料閲覧室の運営業務を開始直前に辞退し、同館を運営する独立行政法人国立美術館から書籍購入などの取引を4カ月間停止されていたことが25日、分かった。
 美術館側によると、契約は3年間。公募に応じた5社から丸善が約6,470万円で落札したが、3月29日に「業務開始の4月1日までにスタッフの準備ができず、対応が困難」との理由で辞退の申し出があったという。
 丸善経営管理部は「ぎりぎりまで協議したが、美術館が求める図書館システムなどの習熟レベルとの隔たりを埋められなかった」としている。
 国立新美術館は閲覧室を1日から21日まで休室したが、前年度の委託業者に一時的に運営を委託し、22日から再開。今月初旬に新設予定だった別館の閲覧室は開室できずにいる。現在、新たに業者を公募している。
 丸善は大学や公立の図書館などの運営支援を約150件手掛けている。〔共同〕

 さらに

国立美術館)法人本部によると、契約は3年間で、予算額は9,315万円だった。公募に応じた5社から、2月5日に丸善が選ばれたが、3月29日になって契約を辞退。丸善経営管理部は「落札後、スタッフの確保に努めてきたが、技能のある要員をそろえることができなかった」と話している。

 3年間で9,315万円の予算に対して、丸善は6,470万円で応札して落札した。ネットへの書き込みでは、司書の人数は9人とのことなので、6,470万円なら年間1人当たり240万円となる。全て人件費に充てたとしても月額20万円、丸善が2割取れば、税込みの月額では16万円になる。これでは必要なスタッフは集まらないだろう。
 最近、公立の図書館の職員に派遣社員が目立っている。TRC(図書館流通センター)などからの派遣で、区の職員とは違って専門知識がないように見える。たしかに人件費の削減には最適の選択なのだろう。なぜ図書館に派遣社員が増えているのか。
 図書館に派遣社員が増えているのは、図書館の仕事が本の貸し出しや書棚の整理などが主体になってきているからだろう。それなら確かに派遣社員でも間に合うと管理者が考えるのも無理はないかもしれない。
 だが、本当は図書館の仕事は本の貸し出しだけではないのだ。実は利用者からの情報の問い合わせに答えることも重要な仕事なのだ。昔ネットで調べるなんてあり得なかった頃、しばしば都立図書館へ電話して調査を頼んだことがあった。例えば、第2次桂内閣の陸軍大臣は誰だったかとか、パキスタンのワタの実に入り込む害虫の名前は何かとか、世界で一番水面の標高の高い湖はどこかとか。すると、2、3時間して電話があり、ワタの害虫は英名をアメリカン・ボールワーム、学名をヘリオティス・アルミゲラ、スペルは云々などと教えてくれるのだった。以前、書籍の編集の仕事などしていたので重宝した。これはレファレンスサービスと言う。もちろん無料のサービスだ。
 カミさんが司書資格を持っていて、むかし公立図書館で非常勤職員をしていたが、利用者からの依頼に応じて検索するためのノウハウを学ぶ講習会に参加したりしていた。上記の知識もカミさんから教わったのだった。
 現在はおそらくそのような要望がほとんどないために、専門知識のない派遣社員でも対応が十分可能と図書館管理者が考えるに至ったのだろう。
 思えば図書館はこのサービスを積極的にPRしてこなかったのではないか。自分たちの仕事が増えると危惧して。その結果、正規職員の仕事が派遣社員に奪われるという結果になってしまった……。