ジョン・スタインベック『チャーリーとの旅』を読む

 ジョン・スタインベック『チャーリーとの旅』(岩波文庫)を読む。副題が「アメリカを探して」、スタインベックが老犬チャーリーと共にアメリカを一周した旅行記荒川洋治が書評で「20世紀紀行文学の代表作」と褒めていた。荒川の書評の一節、

 ニューヨークからカナダ国境付近まで北上。そこから西へ転じ、ロッキー山脈を越えて、太平洋沿岸へ。故郷に立ちより、テキサス、ニューオーリンズを経て、ニューヨークに帰る。2か月半で、34の州を回った。その間、スタインベックだと気づいた人はいなかった。自由な旅ができた。

 

 これは1960年、スタインベックが58歳の時、その後ノーベル文学賞を受賞する。私は高校生のとき『怒りの葡萄』を読んだきり、60年ぶりくらいのスタインベックだった。誰も著名は作家だとは気づかなかった旅、だから事件は起きないし、様々な土地に対するスタインベックの感想が主なものになる。一人旅なので老犬との会話も重要になる。

 本書を読んでいて、私がアメリカの地理に疎いことが分かった。ほとんどの州の位置関係を知らなかったし、それらの特徴も知らない。同じような旅をしたジャック・ケルアックオン・ザ・ロード』(河出文庫)を思い出す。ケルアックの主人公はニュ-ヨークからサンフランシスコまで、親友とともに車やバス、鉄道などで何度も往復する。それに比べてスタインベックの旅は淡々としていて、穏やかな日々だ。

 スタインベックは旅の初めに0.75トンのピックアップトラックを購入して、そこに小さな住居を載せてもらった。ダブルベッド、4口のガスバーナー、ヒーター、冷蔵庫、ブタンガスによる照明、化学処理式トイレ、クローゼット、収納庫、虫除けの網戸のついた窓、この車をロシナンテと名付けた。ドン・キホーテの愛馬の名前だ。

 それにしても58歳で自分で運転する車で16,000kmを走破したのだ。どんなに穏やかそうに見える旅でもドラマチックでないはずがなかった。440ページの楽しい読書だった。

 一か所校正ミスかと思われる記載が。317ページの「雑草のミヒシバ」は「雑草のメヒシバ」ではないだろうか?