ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』を読む

 ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』(河出文庫)を読む。カナファーニーは1972年に自動車に仕掛けられた爆弾によって36歳の若さで亡くなったパレスチナの作家。たった1冊この本を読んだことで、パレスチナの問題が生々しく迫ってきた。
 突然のイスラエルの攻撃に追われ、家と故郷を捨てて逃げ、難民になった夫婦。しかしその時夫婦は生まれたばかりの赤ん坊と引き離される。20年後ようやく故郷に旅行することが許される。自分たちの住んでいた家にはポーランドから移住してきたユダヤ人が住んでいた。そこへその家の息子が帰ってくる。パレスチナ人の夫によく似た息子が。その息子はイスラエル兵になっていた。
 一番長い中編が「太陽の男たち」だ。パレスチナの難民の男たち3人がクェートへ密入国しようとする。それを斡旋している男の車に乗って出かけるが。最後のところで結末がどうなるか想像できた。事実その通りの終わり方をした。どうして分かったのだろう。
 本書を買ったのは8月8日だった。末尾に挟んであった新聞記事の日付は8月6日だった。その記事は毎日新聞の書評だった。それを見て買ったのだ。買ったのち本は本棚に挟み込まれた。そして3か月後にようやく読んだのだったが、もうなぜこの本を買ったのかは覚えていなかった。もしやと思って書評を読み直してみた。「太陽の男たち」の結末がそこに書かれていた。書評のことはとうに忘れていたのに、深いところに記憶していたのだった。書評者は荒川洋治だった。その書評から、

 中東の現実を知るために、人間について考えを深めるために到底忘れることはできない。心を強く揺さぶる雄編だ。

 物語は偉大だ。たった1冊でパレスチナ問題に対して関心を抱かせられた。以前『悲情城市』という映画を見て、それまで関心のなかった台湾がいっぺんに好きになったように。


ハイファに戻って/太陽の男たち (河出文庫)

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