ケンジ・タキ・ギャラリーの塩田千春新作展を見る


 東京新宿のケンジ・タキ・ギャラリーで塩田千春新作展が開かれている(9月26日まで、ただし8.24まで夏期休廊中)。現在塩田はヴェネチア・ビエンナーレに日本代表として出展している。
 塩田千春は2007年に神奈川県民ホールの個展を見て圧倒された。5つの部屋をすべて使ってインスタレーションを行っている。一番大きいホールでは中央に黒く焼けたグランドピアノが置かれ、その周囲にやはり焼けた椅子が取り囲むように置かれている。ピアノも椅子も天井から吊られた黒い糸に絡まれている。それらを取り巻くホールの壁も黒い糸が絡まりついている。そのホールの一角には四角い古そうな窓枠が積み重ねられている。窓枠を縦に積み重ねて丸い円筒形の空間を作っている。他の小さな部屋も2つは黒い糸に覆われている。糸で覆われた奥に明かりがあったり、ピアノが置かれていたりするのだが、びっしりと張り巡らされた黒い糸によって詳細は分からない。
 別の部屋ではやはり窓枠を壁のように使って空間が作られている。これらの窓枠は崩壊した東ドイツで実際に使われていたもののようだ。写真を展示した部屋もある。ベッドに寝た若い女性を黒い糸が覆っている。とても強い印象を与える展示だった。
 2008年の資生堂ギャラリーの椿会の展示では、塩田は使用された洋服やカバン、鏡などを四角い箱に入れ、黒い糸でがんじがらめに縛っている。2007年の神奈川県民ホールインスタレーションの延長にある作品だ。すごい存在感で他の作品が霞んでしまった。
 2013年の「DOMANI」では、様々な人に提供してもらったたくさんの古い靴を床に並べ、それらの靴に部屋の奥から伸びる赤い糸を放射状に結んで展示している。靴にはそれぞれ紙片がはさまれ、持ち主の簡単なメモが書かれている。
 塩田の初個展は、1996年神田にあった秋山画廊で行われたものだ。ここにそのDMを掲載するが、当時から黒い毛糸を使ったインスタレーションをしていた。

 今回のケンジ・タキ・ギャラリーの展示は家の枠組みの立体に赤い糸を絡ませている。これは塩田の最初の個展から変わらない手法だ。数多くはないが塩田の展示を見てきた経験から、赤や黒の糸は関係を表しているのだろう。関係には否定的なものも肯定的なものもある。否定的には束縛となり、肯定的には絆となる。そのアンビバレンツな意味を持っているのだろう。
 塩田には社会性がある。それは自己の内面にしか興味を持たない作家に比べて、とても有意義な取り組みだろう。今回のヴェネチア・ビエンナーレ出展を機に、東京の大きな公立美術館で個展を開催してほしい。
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塩田千春新作展
2015年7月17日(金)−6日(土)
ただし8月7日ー8月24日夏期休廊
日・月・祝日休廊
12:00ー19:00
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ケンジ・タキ・ギャラリー
東京都新宿区西新宿3-18-2
電話03-3378-6051
http://www.kenjitaki.com