塩田千春展「鍵のかかった部屋」を見る










 横浜市神奈川芸術劇場で塩田千春展「鍵のかかった部屋」が開かれている(10月10日まで)。会場は少し薄暗くなっていて、大きな部屋一面に天井から周囲まで赤い毛糸が張り巡らされている。
 入口に近い半分の空間には5つの扉が設置されている。その扉の周囲も赤い毛糸が張り巡らされている。その空間の中に入ると赤い毛糸に取り囲まれて、何か充実した豊かな気分になる。
 奥の空間も同じく赤い毛糸が張り巡らされているが、こちらは天井からほとんど無数の古びた鍵が吊り下げられている。とにかくきれいな空間なのだ。
 塩田は1996年の秋山画廊での初個展から空間一杯に糸を張り巡らすインスタレーションを重ねてきた。それは何を表しているのか。おそらく最初は糸は束縛を表していたのではないだろうか。家族などからの束縛。それが次第に展開されていって、束縛でもあり絆でもあるというアンビバレンツなものに変わっていったのではないだろうか。
 イメージはそれによって断定するのが難しい。あいまいさを免れがたい。昔読んだのではっきりとは憶えていないが、コプラという概念を知ったのは中井正一からではなかったか。あるいは名取洋之助からだったかもしれない。名取は『写真の見方』(岩波新書)の中で、写真にはコプラがないと書いていた。コプラとは繋辞のことで、「である」と断定する機能だ。写真の意味するものを決定するためにはキャプション(写真説明)が欠かせないという。あるいは組写真という方法が必要だ。数枚の写真の組合せによってメッセージを発信できる。それはエイゼンシュタインの映画のモンタージュ理論と共通する方法だ。中村宏エイゼンシュタインの映画によってモンタージュ理論を学び、「砂川五番」を描いたと言っていた。
 イメージはそれ自体では明確なメッセージを発するのは難しいのだ。塩田のインスタレーションから、束縛と絆というアンビバレンツなメッセージを受け取るべきだとはだから断言できないのだが。
 塩田の今回のインスタレーションは造形的にも美しく、同時に深い意味を発していると思う。そういう意味では、アンゼルム・キーファーの造形とよく似ている。キーファーの作品も深い意味と優れた造形を併せ持っている。
 この塩田千春展は今年一番の展覧会だと思う。
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塩田千春展「鍵のかかった部屋
2016年9月14日(水)−10月10日(月・祝)
10:00−18:00(会期中無休)
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神奈川芸術劇場
横浜市中区山下町280
電話045-633-6500
http://kaat-seasons.com/chiharushiota/