森美術館の塩田千春展「魂がふるえる」を見る

 東京六本木の森美術館で塩田千春展「魂がふるえる」が開かれている(10月27日まで)。塩田は1972年大阪府生まれ、1996年に京都精華大学美術学部を卒業している。1996年に渡欧し、現在ベルリン在住。2015年にはベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表を務めた。
 今回森美術館で塩田の集大成のような展示が行われている。最初に部屋いっぱいに赤い糸が張り巡らされている。糸は床に置かれた小型の舟から伸びている。おそらく舟は家族とか共同体を表しているのではないか。それらが無数につながって世界を作っているかのようだ。華やかな空間を創っている。赤い糸は人と人を結ぶ絆を表しているのではないか。

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 ついで黒い糸に覆われた部屋がある。中央に焼けただれたグランドピアノや焼けた椅子が置かれている。天井から黒い糸がピアノや椅子に伸びている。塩田は子供のころ隣家が火事にあって庭に運び出されたピアノが焼け焦げていたと書いている。それは事実だったろうが、黒い糸は桎梏を表しているに違いない。1996年に神田の秋山画廊で開いた個展の写真が掲示されていた。23年前のこの個展を見た覚えがあり、無数の黒い糸が天井から下がっていた。この写真で見ると床には赤い絵具がドリッピングされた紙が一面に敷かれている。この床の赤い紙のことは憶えていなかった。これについて塩田は何やら書いているが、本当は黒い糸の表す桎梏によって当時塩田は血が流れるような苦しさを味わっていたに違いない。ピアノや椅子が置かれた空間を覆う黒い糸は、感受性豊かな若い心を押しつぶす重圧を表しているようだ。

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1996年の秋山画廊の展示

 たくさんの窓枠が積み上げられた作品がある。以前神奈川県教育会館だったかでも同じものを見たが、壁が崩壊した後の東ドイツの集合住宅の廃棄された木製の窓枠を集めたものだったと思う。ここでも塩田は共同体の姿を見つめている。

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 最後に400個を超える旅行カバンが天井から吊り下げられていて、中のいくつかが絶えず揺れ動いている。塩田も含めて移住したり難民となって越境していく人々を表しているのだろう。それはまぎれもなく現在の世界の姿なのだ。

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 今年がやっと半年過ぎたばかりなのに、この塩田千春展が今年の展覧会ベスト1であるのは間違いないだろう。
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塩田千春展「魂がふるえる」
2019年6月20日(木)-10月27日(日)
10:00-22:00(火曜日は17:00まで)会期中無休
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森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
ハローダイヤル03-5777-8600
http://www.mori.art.museum