VOCA展〜鈴木紗也香個展を見て


 上野の森美術館VOCA展を見る(3月30日まで)。VOCA展は「全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などに40歳以下の作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという独自の方式により、毎回、各地から新しい才能を紹介してき」たというもの。今回が20回目となる。
 VOCA賞を受賞したのが鈴木紗也香だった。さすがに全国から推薦されてきた作家たちだけあって、正直私には甲乙つけがたい。どうやったら、彼ら優秀な作家たちを大賞、奨励賞、佳作、その他の入選作に選別することができるのだろう。
 大賞を受賞した鈴木紗也香の作品も、会場で見て悪くはないと思ったもののダントツ1位だということが私には分からなかった。たった1点の作品で甲乙を決めることは難しいのではないか。

 実はVOCA展を見る前に、東京銀座のギャラリーQで鈴木紗也香展(3月18日〜23日)を見てきた。鈴木は1988年ロンドン生まれ、現在多摩美術大学大学院油画美術研究絵画専攻2年に在籍中だ。個展の鈴木の作品はすばらしいと思った。とくにここ掲げたDM葉書の作品、今年描いた最新作というのがとても良かった。左の窓の手前に巻かれているカーテンの描写、手前の柱に巻き付いているひものようなもの、それらの色彩と筆触がなんともいえず艶めかしく魅力的だ。こんな表現はなかなかできるものではないだろう。この個展を見ればVOCA展受賞が妥当であることが納得される。
 時期を合わせて講談社のPR雑誌『本』3月号の表紙に鈴木のVOCA賞受賞作が取り上げられ、高階秀爾がいつもどおり的確な解説を書いている。


 かすかな微光を放つ多彩な色調が響き合って、精妙な色彩の音楽を奏でる。さまざまの楽器がそれぞれ異なった音色を響かせながら、全体として調和のとれたオーケストラの世界を形成するように、色相の異なる多様な色面が、厳密に自己の領分を守りながら豊潤な色彩の饗宴を繰り広げる。その洗練された調和の感覚は、見事というほかはない。(中略)
 ナビ派の画家で理論家でもあったモーリス・ドニが、絵画の本質は「ある一定の秩序で集められた色彩で覆われた平坦な面」と看破したのは、19世紀末のことである。それからほぼ1世紀余り、絵画は平面性の限界と可能性をさまざまなかたちで追求して来た。洗練された色彩表現にひそかに自己の内面を託した卓抜な自律的画面を生み出した鈴木紗也香は、その新しい絵画の旗手の1人と言ってよいであろう。

 VOCA展会場の隣のギャラリーでは1994年から2012年までのVOCA賞受賞作の一部が並べられていた。会場にあるリーフレットから、受賞者たちの名前をひろってみると、福田美蘭、世良京子、小林正人、三和美津子、東島毅、小池隆英、湯川雅紀、やなぎみわ、岩尾恵都子、押江千衣子、曽谷朝絵、津上みゆき、前田朋子、日野之彦、小西真奈山本太郎、横内賢太郎、三瀬夏之介、三宅砂織、中山玲佳、鈴木星亜等が紹介されている。その後成功した作家も消えてしまったような作家もいる。かつて加藤泉が入選に留まり、日野某とか山本某のような作家も大賞に選ばれたことを考えると、VOCA賞受賞が必ずしもその後の成功を約束するものではない。ただ、一つの指標ではあるだろう。