香取神社の塀




 墨田区香取神社香取神社は戦争の神様だ。神社の正面の門柱に「皇国」「鎮護」と彫られている。神社の周囲にコンクリート製の塀が建っている。そこにおそらくこの塀を作るための費用を寄進しただろう企業や人の名前が、大きな字で彫り込まれている。塀が作られたのが昭和5年とある。ひときわ大きな文字が「花王石鹸株式会社 長瀬商會」だ。何しろ香取神社の真向かいが、神社の敷地の10倍以上はあろうかという花王石鹸の工場なのだ。今から80年前は花王石鹸は長瀬商會と言ったのか。
 これを眼にするたび、何て無粋で品がないのだろうと思っていた。いくら寄進したか知らないが80年後もそれを刻んで見せているなんざ野暮の骨頂だろう。社名だってもう変わってしまっているし、個人だったらもう生きていないだろう。
 どうすべきだったのか。せいぜい石碑や金属のプレートなどに小さな字で刻むくらいが適当だろう。神社の祭礼などで寄付した人や企業の名前は掲示板のようなところに貼り出される。祭礼が終わったあと、それらはきれいさっぱり廃棄される。それが粋だと思うのだ。