堤未果『デジタル・ファシズム』を読む

 堤未果『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)を読む。副題が「日本の資産と主権が消える」。

 カバー袖の惹句から、

 

コロナ禍の裏で、デジタル改革という名のもとに恐るべき「売国ビジネス」が進んでいるのをご存知だろうか? アマゾン、グーグル、ファーウェイをはじめ米中巨大テック企業が、行政、金融、教育という、日本の“心臓部”を狙っている。デジタル庁、スーパーシティ、キャッシュレス化、オンライン教育、マイナンバー……そこから浮かび上がるのは、日本が丸ごと外資に支配されるXデーが、刻々と近づいている現実だ。果たして私たちは「今だけ金だけ自分だけ」のこの強欲ゲームから抜け出すことができるのか? 

 

 本当に恐ろしく興味深い内容だ。デジタル化で個人情報が米中巨大テック企業に集められる。中国のファーウェイの創業者と中国共産党習近平国家主席の両者は、吸い上げた個人情報を集積したビッグデータを、「データとは、現代版産業革命の石油だ」と。

 日本はキャッシュレス決済率が約3割(2020年)と世界でも稀に見る現金大国だ。政府は2025年を目処にキャッシュレス決済率を40%までに引き上げる計画を掲げている。だがキャッシュレス決済1位の韓国はカード地獄に陥っている。1人あたり4枚強のカードを持つ韓国の消費者はキャッシュレスで買い物をすればするほど、その購買データを元にした自分好みの新製品広告が続々と送られてくる。2020年、韓国のクレジットカード利用残高の総額が3兆円近くと、過去最大額を記録した。

 中国は世界でも2番目にキャッシュレス決済が普及している国だ。中国では、どこに住んで、どんな味を好み、どんな家族構成でどんなペットがいるのか。1週間に平均で食事にいくらかけるのか? どんな本を読み、どんな薬を服用し、どんな金融商品を買っているのか? 子供の成績から交友関係、自身の思想信条に至るまで、ありとあらゆる個人情報をアリババとテンセントに吸い取られる。

 一方、ナチス政権下で全体主義の苦い経験を持つドイツではキャッシュレス化に反対する声が少なくない。

 教育分野では日本政府が「GIGAスクール構想」を進めている。生徒1人1台のタブレット支給、クラウドの活用、高速大容量インターネット通信環境を全国の小中学校に整備することを掲げている。GAFAがプラットフォームを提供し、生徒たちの個人情報がどんどん蓄積されていく。グーグルは個人データの扱いは文科省ガイドラインに準拠していると言う。しかし2021年に国会を通過した「デジタル改革関連法」で、「センシティブ情報」の収集禁止も解禁された。オンライン授業の進展は、究極には〈通常の知識を教える教師は各教科に全国で1人いればよい》と竹中平蔵は言う。

 オンライン教育はドル箱だと言う。アメリカのミネソタ州で始まった「チャータースクール」制度は、民間企業が運営する公立学校だ。良い点数が出せない学校は認可が取り消されるので、障害のある子や成績の悪い子を入学させるのはリスクがある。学校の価値を落とさないように、数字で結果が出せない生徒は速やかに退学処分となる。経費の大半を占める人件費の削減は、教師を契約社員にするか、州によっては教員免許を持たないスタッフに授業させればいい。

 デジタル化は世界の趨勢だと信じ込まされてきたが、きちんとその本質を見極めなければならないことを教えてくれた。多くの日本人が読むことを期待する。