木村敏『異常の構造』を読む

 木村敏『異常の構造』(講談社学術文庫)を読む。本書は50年前に講談社現代新書として発行されていたもの。木村は本書で精神分裂病(現在の呼称では「統合失調症」)について分析している。統合失調症を単なる精神障害の病気として扱うのではなく、それが人間の存在様式と深く結びついていることを突き詰めていく。統合失調症の分析であると同時に人間の存在論でもある。しかし、木村は精神病理学に関する臨床医なので、議論は哲学者のように形而上学に陥らないで、個々の具体的な患者の症例の分析からその人間の存在論に迫っていく。

 巻末の長い解説で渡辺哲夫が書いている。

 

……「木村精神病理学」において、「あいだ」は、哲学的観照のための概念ではなく、純粋に「実践的・行為的」な熱気充満の場所、生きられ直観されるしかない場所なのである。ハイデガーのいう「存在論的差異」も根拠的存在と個々の存在者の「あいだ」を語る言葉だが、これが木村氏によっていきいきと言い換えられ「生命論的差異」へ、危機と転機の論へと展開されていく。ここで、「差異=根拠関係=共通感覚の場所=あいだ」であることは言うまでもない。解り易さを求めて少し乱暴に言うなら、その都度に生きられている根拠たる「差異=あいだ」から派生的・二次的に「私」と「世界」とが生まれ出てくるのであって、逆ではないということである。

 

 木村敏について、今まで何冊か読んできたが、やはり重要な思想家だと思う。もっと読んでいきたい。