東京銀座の銀座スルガ台画廊で「野見山暁治の気ままな小品展」が開かれている(5月25日まで)。どうしてスルガ台画廊で個展を? って思ったら、画廊主の串田光子がDM葉書に書いている。
先生のお作品との最初の出会いは1965年パリ在留時に親しくフランス語を教えて下さったマドモアゼルシェスネイのお家にうかがった時でした。一本の樹の素晴らしいデッサンでした。
このたび念願がかない個展を開催させていただく運びとなりました。
マドモアゼルシェスネイは野見山のエッセイにマドモアゼルセスネイとしてたびたび登場していた、最初の妻陽子を亡くしたときに野見山を慰めてくれたのは彼女だった。野見山暁治『遠ざかる風景』(筑摩書房)にこんな風に書かれていた。
この(セスネイの)家で私はひと冬をすごしたことがある。私の妻がシテ・ユニベルシテルの病院で亡くなったあと、あたたかい春がくるまでここに住むようにと彼女が言ってくれたのだ。(中略)
病室では涙を見せなかったセスネイさんが、自分の部屋に戻ってからは、赤く目をはらしていた。
可哀そうな子、マドモアゼルは、自分の膝に私をだきよせて涙をながした。愛欲をはなれて、こんなにしっかりと女に抱きついてよいものか。フランス女の腰や膝は、か細い私の涙をうけとめる、たしかな厚みがあった。なにかといえば、私はその厚みに傷心の体を埋めた。
もう生涯私は独りだ。そう呟いたとき、彼女は私の顔を両手でもちあげて、きっぱりと言った。何ということを、お前は生きているのだよ、お前の肉体はこうして生きているではないか。
そのセスネイ繋がりでこの個展が開かれたのだ。「気ままな小品展」とあるが、油彩もしっかり並んでいるし、洒脱な小品もとても良い。初日にはオープニングパーティーも開いて120人ほどが集り、野見山さんも元気に挨拶されたそうだ。今年99歳になる。
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「野見山暁治の気ままな小品展」
2019年5月13日(月)-5月25日(土)
11:00-19:00(最終日17:30まで)日曜休廊
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銀座スルガ台画廊
東京都中央区銀座6-5-8 トップビル2F
電話03-3572-2828