丸谷才一『別れの挨拶』を読む

 丸谷才一『別れの挨拶』(集英社文庫)を読む。丸谷の死後2013年ににまとめられた単行本の文庫化。丸谷は2012年に亡くなった。本書は2010年9月以降に発表された文章に、それ以前に書かれた単行本未収録のものを加えて編集したと解題にある。
 最初に「批評と追悼」という章があり、これがおよそ半分を占める。短いが作家論であり作品論である。取り上げられているのが、芥川龍之介石川淳吉田健一河上徹太郎大岡昇平吉行淳之介和田誠辻静雄鹿島茂三浦雅士谷沢永一吉田秀和、それにクリムトに関するメモ書きと断章が収録されている。それに和歌論、文法論、書評、挨拶文からなっている。
 「毎日新聞『今週の本棚』書評総会での挨拶」という文で、丸谷が挨拶した文章が採録されている。丸谷は過去にも自分の挨拶をまとめて本にしたことがあったから、採録されたのは本望だろう。そこから一部を引く。

 このあひだ講談社から出てゐる「クーリエ」といふ雑誌を読んでゐましたら、どこかの国の雑誌記者が日本に来て、村上春樹さんと5日がかりでインタビューをする、食事をしたり、散歩をしたり、走つたりした記事が載つてゐました。そのなかで彼は春樹さんに、「あなたとジョージ・オーウェルはどういふ所が違ひます?」と訊ねる。言ふまでもなく春樹さんの『1Q84』がオーウェルの『1984』を踏まへたものであるからの質問ですね。返事は、「オーウェルは50%が小説家で、50%がジャーナリストですが、私は100%小説家です」といふものでした。
 これを読んでわたしは、自分は50%小説家で50%が批評家だな、と思ひました。

 今まで丸谷才一のエッセイを愛してきた。ずいぶん読んできたと思う。本書はいままでのエッセイと比べて硬いものが多い。それがあまり面白くなかった。丸谷のエッセイで雑学っぽいものが好きだった。丸谷は自分は半分小説家で半分批評家だと言っているが、その中途半端さがまさに丸谷を表しているのではないか。
 私の愛していた丸谷才一は気楽な雑学を綴っていたエッセイストなのだった。晩年になってからの上から目線的な物言いも少々気になって来ていたのだった。

別れの挨拶 (集英社文庫)

別れの挨拶 (集英社文庫)