丸谷才一『女ざかり』を読む

 丸谷才一『女ざかり』(文春文庫)を読む。1993年に単行本が発行されて1年そこそこで35万部のベスト・セラーになったと巻末の解説で瀬戸川猛資が書いている。先に金井美恵子が『本を書く人読まぬ人とかくこの世はままならぬ PART II』で本書を酷評していたので読んでみる気になったのだった。
 丸谷才一のエッセイが好きで何冊も何冊も読んできた。しかし小説を読むのは初めてではなかったか。意識的に敬遠していた。なんとなく面白そうではなかったから。尊敬する加藤周一の小説もその優れた評論に比べれば今一歩だった。さて丸谷才一の小説は?
 丸谷は小説でたくさんの薀蓄を繰り広げる。小説の本筋を離れて贈与論やら何やらを詳しく展開する。登場人物の主張というよりも、それらの主張を繰り広げるのが目的になっているような錯覚を覚えるほどだ。これは小説の少なくとも正統なる道ではないだろう。小説というのはもっと違ったものだと思うのだが、それを明確に書くことができない。ただ丸谷の小説を読みながら、強い違和感を感じ続けていた。贈与論や昭和天皇論、大正天皇論などが登場人物の口から語られていても、丸谷の持論のように思えてしまう。すると、それらの主張に同意できない場合は、登場人物に対して反論すべきなのか丸谷に対して反論すべきなのか混乱が生じてしまう。
 なんだかぐずぐずした感じを持ちながら読み続け、最後に手品のような展開ですべてが無事解決したとき、作者にいいように引きずりまわされたような気がした。これを傑作小説とは言いかねる。


女ざかり (文春文庫)

女ざかり (文春文庫)