『ダーウィンの覗き穴』を読む

 メノ・スヒルトハウゼン/田沢恭子 訳『ダーウィンの覗き穴』(早川書房)を読む。副題が「性的器官はいかに進化したか」、読売新聞に柴田文隆による書評が掲載されていた(2016年2月28日)。

 生殖器に小さなスプーンが付いていて、先客の精子を掻き出してしまうカワトンボのオス。生殖器ではなく、顎を使って精子を送り込むコシボソダニ。相手の腹に針のような触肢を突き刺して直接精子を注入するクモ……。(中略)
 交尾中のペアを瞬間冷凍し交尾器を解剖したクモ学者。太古の甲虫の0.4ミリのペニスをCTスキャンで撮影に成功した昆虫学者。ヒトのオスの靴サイズと生殖器長の相関関係解明に挑んだ泌尿器科医。学問は尊い。(中略)
 ……下心だけで読み切れる本ではない。読者となるには覚悟がいる。

 書評には「 ヒトのオスの靴サイズと生殖器長の相関関係解明に挑んだ泌尿器科医」とあったが、本文では「ヒトにおいても、ペニスのサイズには私たちのこだわりからうかがわれるほどの差はなく、ほかの身体サイズの指標ともほとんど関係していない。俗説に反して、明らかに靴のサイズとも無関係だ」と書かれている。

……進化においてはいわば汎用で「万能サイズ」の生殖器が有利であることが示唆される。(中略)雄か雌の交尾器が大きすぎたり小さすぎたりすると、相対すべき雄側の突起と雌側の神経終末や伸張性の受容器が適切な位置関係になれない。すると、性淘汰において、生殖器が立派すぎても貧相すぎても適合できないパートナーが多くなってしまうので、次世代に遺伝子をたくさん残すことができない。このように生殖器が極端に大きくても小さくてもその持ち主は進化において不利になるので、その結果として生殖器は負の不等成長を示し、サイズが平均化して「万能サイズ」となるのだ。

 とは言え、その少し前では多少ニュアンスが異なることも書かれていた。

……ポルトガルアメリカ・スコットランドのチームが、主にスコットランド人からなる320人以上の女性に、オルガスムと性的嗜好に関する質問票に回答させた。その結果、過半数の女性が、平均より長いペニス(回答者の助けとなるように、質問票には「20ポンド札より長い」と書き添えられていた)を持つ男性のほうが膣オルガスムに達する頻度が高いと報告した。

 ここに書かれた「膣オルガスム」については、別の場所でこう書かれている。

 ヒトにおいてクリトリスは雌のオルガスムを生み出す場所なので(いわゆる膣オルガスムもクリトリスの内部刺激によって作用すると考えられている)、……

  ヒトのオスの靴サイズと生殖器のサイズに相関関係がないと書かれていたが、友人や知人で靴のサイズが大きくて生殖器も大きいのを3人知っていた。彼らの靴のサイズは皆27センチもあった。ちなみに私は25.5センチで、この説と矛盾しない。もっとも昔一緒に飲んだ(だけの)若い女性が、男は太さを気にするけど鼻の穴にニンジン突っ込まれて誰が嬉しいのよ、大事なのは長さよと過激なことを言っていた。同席した他の2人の女性たちもそれを肯定していた。
 次にオスたちにとって見過ごせない説が紹介されている。

通常、雌は一度に産む卵の父親が複数であることを好む。健全な遺伝的多様性をもたらせるからだ。ところが雄は、卵の受精に使う混合物にほかの雄の精子を加えるという雌の決定権を奪うことによって、精子競争を阻止することができる。

 これらの引用によって本書がきわめて興味深いものに思えるかもしれない。しかし、これらは人に関係の深い面白そうなところを集めたものだ。本書のほとんどが昆虫やクモ、ダニ、ナメクジなどの性行為を綴っている。途中何度もどうしてこんな虫の交尾の詳細をえんえんと読まなくちゃならないんだとくじけそうになった。書評氏も書いているように「 下心だけで読み切れる本ではない。読者となるには覚悟がいる」のだ!


ダーウィンの覗き穴:性的器官はいかに進化したか

ダーウィンの覗き穴:性的器官はいかに進化したか