近藤等則×佐藤卓『空の気』を読む

 近藤等則×佐藤卓『空の気』(みすず書房)を読む。フリージャズ・トランペッター近藤と売れっ子グラフィック・デザイナー佐藤との対談集。トランペッターとデザイナー、やはり接点が少ない。すると対談はどうしても抽象的に語らざるを得ない。近藤の世界=フリージャズに佐藤が踏みこむことはしづらいし、佐藤の世界=グラフィック・デザインを近藤が語るのも難しい。
 近藤は18年間、アムステルダムを拠点に、イスラエルのネゲブ砂漠、ヒマラヤ、アンデス山脈など大自然の中でエレクトリック・トランペットを吹くプロジェクト「地球を吹く」を続けてきた。佐藤はグラフィック・デザインを中心に、商品デザイン、プランディング、CIなどの仕事をやってきた。佐藤がメレンゲバンド「アラスカ・バンド」で活躍もしてきたというものの、二人の接点があまりに希薄なのだ。それでもいくつか興味深かいところがあった。

佐藤  僕のデザインであると気がつかれなくて全然いいんです。もちろん、そんなことは当たり前です。究極的には、デザインがあることすらも気がつかれなくていい。なにも考えないで使ってもらえればいい。
 水がデザインのメタファーだとすれば、もし水のようなデザインができたとすれば、もちろんできるとはまったく思ってないのですけど、できたとすれば幸せですね。
 にもかかわらず、日本の歴史の中にある素晴らしいものを見てみると、そこここにデザイン的視点があることに気づきます。それも個々のデザイナーの力ではなくて、長年積み重なった、世界中どこにも真似ができないデザインが日本にはあるではないか。

 さすが一流のデザイナーの見方だ。

近藤  俺が大学に入学した60年代後半、ジャズはロックに負けていなかった。
 なんでジャズがロックに負けたかというと、要するに、エレクトリックに負けたんです。ジャズは基本的にアコースティックの音楽です。いってみれば室内楽。でも、ロックはアンプを使って、何千人何万人の集客ができた。
佐藤  音を増幅させて。
近藤  なおかつ、めちゃくちゃシンプルなビートにした。じつはジャズのリズムは、ドラマーがビートを出しているのではない。ベーシストなんですよ。ロックは、ドラマーがシンプルなビートを叩いた。

 そして、

近藤  これから言うことは、ミュージシャン同士で酒飲んでする放言なのだけど、「最近変わったよな」と。昔は「お客様は神様です」と言ったのは三波春夫だけだったのに、アムステルダムから日本に帰ってきたら、ほんとに怒られるかもしれないけれど、今のロックのミュージシャンはみんな「お客様は神様です」と言っている。ファンがいっぱいいるやつが武道館や東京ドームで公演をして、なおかつグッズをいっぱい売っている。昔のロックのミュージシャンは、ステージの上から客に向かって「Fuck you!」って言っていたのに。

 近藤の発言は小気味いい。さらに近藤はドイツ人のサックス吹きにメールを打った。「21世紀の終わり頃には、90%以上、ロボットが音楽をやるんだから、われわれが最後の人間としてのミュージシャンの生き残りなのだから、楽しくやろうぜ」と。
 近藤等則といえば、彼がアムステルダムへ行くかなり前に、近藤が全曲作曲して演奏した浅川マキの『CAT NAP』という最高傑作アルバムがあった。それに痺れて、近藤のアルバム2枚『337』と『IMA / Metal Position』を購入したのだった。一応好きなトランペッターなのだ。

CAT NAP(紙ジャケット仕様)

CAT NAP(紙ジャケット仕様)

337

337