クルト・ワイルの歌曲の面白さ!

 クルト・ワイルの歌曲が日本ではあんまり人気がないように思える。もったいない話だ。クルト・ワイルは戦前ドイツで活躍し、ナチスを逃れてアメリカに移住した。有名な「三文オペラ」は戯曲家ブレヒトとの共作のオペレッタアメリカでは「セプテンバー・ソング」がヒットしている。
三文オペラ」には名曲がたくさんあるが、まずジャズの有名なナンバーになっている「マック・ザ・ナイフ」、正確には「メッキー・メッサーの殺人物語大道歌」、それから「海賊ジェニー」「大砲ソング」「バルバラ・ソング」「セックスのとりこのバラード」「人間の努力の至らなさの歌」「ソロモン・ソング」等々。
 歌手は何人もが歌っているが、私が持っているCDはまずギーゼラ・マイGisela Mayの「Brecht-Weill Songs」、ウテ・レンパーUte Lemperの「Ute Lemper Sings Kurt Weill」、アンネ・ソフィー・フォン・オッターAnne Sofie von Otterの「Speak low」、テレサ・ストラータスTeresa Stratasの「Stratas Sings Weill」、ミルバMilvaの「Milva Canta Brecht」、御大ロッテ・レーニャLotte Lenyaの「Kurt Weill Berlin & American Theater Songs」などだ。
 一番好きなのはウテ・レンパー、彼女の「セックスのとりこのバラード」はしびれる。ストラータスは気だるい大人のクルト・ワイル。ロッテ・レーニャはワイル夫人だった人。映画「007 ロシアから愛をこめて」で靴の踵に凶器を仕込んでいた悪役の婆さんがロッテ・レーニャだ。ミルバはコンサートに行ったくらい好きな歌手だけど、やはり「三文オペラ」のバラードはドイツ語で聴きたい。イタリア語ではどうも・・・。ギーゼラ・マイは定番だそうだけど、あまり好きになれない。名歌手フォン・オッターはとても上品だが、やはりクルト・ワイルにはアクが必要のようだ。彼女にも不満が残ってしまう。
 ジャズではエラ・フィッツジェラルドの「Mack the Knife-Ella in Berlin」がいい。何とロックでも素晴らしいCDがある。「星空に迷い込んだ男〜クルト・ワイルの世界」で、スティングが「マック・ザ・ナイフ」を歌い、「大砲ソング」をザ・フォウラー・ブラザーズが、「セプテンバー・ソング」をルー・リードが歌うなど全20曲を別々のロック歌手が歌っている。
 高橋悠治「いちめん菜の花」のアルバムで「「人間の努力は長続きしない」を歌っている。
 私の隠し球は「ショウボート昭和」というLPレコード。副題が「黒色テント68/71『喜劇昭和の世界』より」と題して、クルト・ワイルの曲に佐藤信が換骨奪胎したメチャ面白い歌詞を付けている。佐藤信ブレヒトの演劇が好きで、「三文オペラ」も上演しているし、「喜劇昭和の世界3部作」の「阿部定の犬」「キネマと怪人」「ブランキ殺し上海の春」にはクルト・ワイルの曲による劇中歌がたくさん使われている。私もこの黒テントの芝居でクルト・ワイルを知ったのだった。
 先のウテ・レンパーのアルバムには、クルト・ワイル作曲のシャンソン「あんたを愛してないわ」Je Ne T'Aime Pasも入っていて、フランス語で歌われている。先日田舎へ帰るバスのなかでこの曲をiPodで聴いていたとき、ジャック・ブレルの「行かないで」Ne Me Quitte Pasも思い出されて、もう愛されていないんだと痛切に感じられてとても辛かった。