新国立劇場で「美しい日々」を見る

 新国立劇場演劇研修所の第4期研修生の修了公演「美しい日々」を同劇場の小劇場で見た。作が松田正隆、演出が宮田慶子だ。第4期研修生の公演は先月リサイタルホールで「マニラ瑞穂記」を見て圧倒された。それで今回楽しみにして来た。役者たちはとても良かった。演出も悪くなかった。では脚本に問題があったのだろう。最近優れた脚本の芝居ばかり見てきたのでちょっと点が辛いのかもしれない。その最近見たというのは、井上ひさしの「ムサシ」、鄭義信の「焼肉ドラゴン」、秋元松代の「マニラ瑞穂記」と名作ばかりだった。
 松田正隆の「美しい日々」はストーリーがすべて宙ぶらりんで放り出されるのだ。男の高教教師永山健一が一間のアパートで熱を出して寝ている。そこへ去年までの教え子で現在一浪中の女の子が訪ねてくる。次に婚約者で同僚教師鈴木洋子がやってくる。女の子が帰ったあと同僚の男の教師井口時夫がやってきて、婚約者は帰っていく。永山は井口に婚約者がしばらく前からやはり同僚教師と浮気を重ねていると訴える。ただ彼女は自分を選んだから近いうちに結婚をするという。
 アパートの隣室には兄妹が住んでいて、兄は働かず妹の金をあてにしている。しかしようやく見つけた夜間道路工事の交通整理の仕事中にふらふらとアパートへ帰ってきてしまうと妹が若い男を連れ込んでいる。
 別の日に永山がアパートにいると婚約者がやってきて、彼女の浮気相手までやってくる。そして彼女を自分に渡してくれという。もつれた三角関係の結果、永山は婚約者と別れ、東京を引き払って九州に住む弟のところへ身を寄せる。そこへ同僚の教師だった井口が初めてできた彼女をつれてやってくる。その彼女は気分屋でわがままだ。
 井口が東京で永山が住んでいたアパートの隣室の男が死体で発見されたと話す。井口もそのアパートに出入りしていたので取り調べを受けた。永山のところにも警察が調べに来るだろうと軽く言う。
 井口が帰ったあと、永山は弟に置き手紙をしてどこかへ出て行く。名前も変えて隠れて暮らしていくという。
 ざっとこんな話だ。隣室の兄妹はどうなったのか。死体はその兄だったのか。同僚の教師の恋愛はどうなるのか。いったいなぜ永山は刑事を恐れて逃げ出さなければならないのか。犯人は永山だとは思えない進行だったのに。わからないことばかりなのだ。すべてが宙ぶらりんの状態に置かれている気がする。観客は感情の昇華を味わえず、芝居の半ばで投げ出されたような気分の中、幕が下ろされた。
 しかし永山を演じた趙栄昊は良い役者だった。修了公演を別の脚本の芝居で見たかったと思う。
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「マニラ瑞穂記」−−新国立劇場演劇研修所第4期生試演会を見る(2011年1月11日)