佐野眞一『東電OL症候群』を読んで

 昨夜、仕事から帰宅した娘が、父さん何か元気がないけどどうしたの? 会社で嫌なことがあったの? と訊いてきた。いや、何もないよと答えたが、なぜか元気がないのは自覚していた。それがなぜなのか、自分でも理由が分からなかった。
 今日、佐野眞一『東電OL症候群』(新潮文庫)を読み終わり、続いて森本恭正『西洋音楽論』(光文社新書)を読み始めた。これがとても面白い。いつもどおり幸福感が甦った。面白い本を読んでいるとき、私はいつも幸福感に包まれるらしい。それで昨夜の自分の落ち込みの原因が分かった。『東電OL症候群』を読んでいたからだ。
 東電OL殺人事件は本当に救いようのない事件だ。被害者渡辺泰子は年収1,000万円のエリートOLにも関わらず、毎夜4人の客をとる街娼だった。心の奥に暗い闇を抱えていた。彼女が売春をしていることは、母も妹も知っていたし、そればかりか職場の同僚たちも知っていた。何ということだろう。
 犯人と目されたネパール人ゴビンダも無期懲役の判決を受けて刑務所に収監されている。佐野の書いた『東電OL殺人事件』と本書を読むかぎりゴビンダは無罪、冤罪であるのは疑いないだろう。
 殺された渡辺泰子の心情も、冤罪に苦しむゴビンダの状況も限りなく不幸だという他はない。読書中、落ちこんでしまったのも無理はないだろう。
 しかし、私は佐野眞一を読むのをやめることはない。少しづつでも全ての著作を読むつもりでいる。佐野の著書『阿片王』も『甘粕正彦 乱心の荒野』も『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』、『旅する巨人 宮本常一』、『カリスマ』、『枢密院議長の日記』など、すべて面白かったから。
 下の写真は東電Ol殺人事件のあった神泉駅近くの喜寿荘というアパート、現在もそのまま使われている。


東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫)

東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫)