「マニラ瑞穂記」−−新国立劇場演劇研修所第4期生試演会を見る

 秋元松代・作、栗山民也・演出「マニラ瑞穂記」を新国立劇場リサイタルホールAで見る。同劇場の演劇研修所第4期生による試演会で、申込み順の無料という公演。これが大当たりだった。とても研修生が演じているとは思えない優れた舞台だった。演出もすばらしかった。
 舞台を囲んで四周に客席が作られている。その真ん中に四角い舞台がある。時は1898(明治31)年のマニラの日本領事館と、翌年1899(明治32)年のマニラ郊外の瑞穂館と日本領事館。スペインからのフィリピン独立を巡る内戦と、それを支援する日本人志士たち、領事、駐在武官、日本人娼婦たちと女衒のボス、それらの織りなす太い歴史劇。
 役者はすべて研修所第4期生だから皆20代、すばらしい演技だった。この研修生たちは国費で3年間学んでいる。毎日8時間、週5日間の研修で役者として鍛えられるという。授業料が年間189,000円だが、2年間は奨学金が月額6万円支給される。ただし定員が十数人、2011年度の募集は12名程度とのこと。
 この制度を提案したのは研修所長の栗山民也らしい。
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栗山民也「演出家の仕事」を読む(2007年12月20日
井上ひさしの朗読劇「リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン」(2008年2月28日)
新国立劇場演劇研修所研修生の高いレベル(2008年2月29日)
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 栗山民也「演出家の仕事」(岩波新書)にはこう書かれている。

 新国立劇場の演劇研修所ができる前のことですが、このスウェーデンの王立演劇学校の責任者から日本の現状について質問されたとき、
「まだ国立の研修機関がないのです」
と答えると、彼は呆然としたまま、何の皮肉でもなくこう言いました。
「では舞台にはどなたが立っていらっしゃるのですか!」

 国の予算を使って、演劇研修所を作って、栗山民也は実にすばらしい仕事をしたと思う。国のお金はこういうところに使わなければいけない。3年間ちゃんと鍛えればこんなに優れた役者が生まれるのだ。千里の馬は常にあれども伯楽は常にはあらず、という諺を思い出す。彼らはこの制度によって優れた伯楽に会うことができたのだ。
 ただ、世の多くの研修所に入れなかった役者たちに伝えたい。研修所に入れなくても諦めてはいけない。さとうこうじというユニークな役者は研修所から生まれたのではなかった。道はいくつもある。
 「マニラ瑞穂記」は優れた台本だ。だが、最後に何百人もの日本人娼婦を東南アジアに送り込んだ筋金入りの女衒、秋本が決闘で人を撃ったあと、娼婦たちの声が聞こえるだのと錯乱して嘆いて、その生涯を反省するように見えるのは、秋元の戯曲の弱点だと思う。彼はそんなにヤワではないはずだ。
 女衒の秋本を演じた趙栄昊(チョー・ヨンホー)の演技が印象に残った。それとシズを演じた木原梨里子の君が代の歌と。木原は素顔がきれいなようだから汚れ役でない役も見たい気がする。
 こんなに良い舞台を無料で見せてもらって本当に申し訳ないと思う。素晴らしい舞台だった。