新国立劇場小劇場の『少年口伝隊一九四五』を見る


 新国立劇場小劇場の『少年口伝隊一九四五』を見る。井上ひさし作の広島への原爆投下を扱った芝居だ。演出が栗山民也、NNTドラマ・スタジオ(新国立劇場演劇研修所)の第7期生たちが演じているリーディング・ドラマ(朗読劇)だ。
 俳優たちは舞台に1列に並べられた木の椅子に座って、台本を手にしてセリフを言う。演技はほんの少ししかしない。広島への原爆投下後生き残った3人の小学生の男の子たちと、新聞社に勤めていた若い女性、それに広島の文理大学で哲学を教えていた老人の5人が主な登場人物だ。
 広島に原爆が投下される少し前から芝居が始まり、生き残った3人の小学生たち、それに中国新聞に勤める女性と老哲学者のあわせて5人が主な主人公。原爆の被害が次々に語られていく。圧倒する言葉の強さ。井上ひさしの真骨頂だ。
 輪転機が壊れてしまって新聞が発行できない中国新聞は、街角で口頭で記事を読み上げて新聞の代わりにすることにした。その口伝者に3人の小学生が選ばれる。アメリカ軍が来るから慰安所を用意することにしたという記事の意味が分からなくて、3人の小学生は老哲学者に聞きに行く。それはアメリカ軍をもてなすという意味だと言われて、小学生たちは数か月前まで徹底的に闘うはずだった相手をどうしてもてなすのかと混乱する。
 原爆投下の2か月後広島を大きな台風が襲い、山崩れが頻発して2,000人が亡くなってしまう。3人の小学生の一人がその時行方不明となり、もう一人がまもなく原爆症で亡くなる。15年後に残った一人も原爆症で亡くなってしまう。
 この芝居を見るのは3回目だった。最初の2回は2008年の初演で、題名も『リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン』と言い、演劇研修所の第2期生が出演した。何度見てもすばらしく、芝居の内容に圧倒される。終わった後、打ちのめされてしばらく拍手することができなかった。
 朗読劇なので、セリフだけで芝居が進行する。それでこれだけの感動を与えるのだから、脚本のすばらしさ、井上ひさしの優れた才能だ。
 今回の公演は、8月1日夜、2日昼、3日昼の3回のみ。小劇場で客席数も少ない。テレビでも放送してくれればいいのに。