三橋貴明「ドル崩壊!」をお勧めする!

ドル崩壊!

ドル崩壊!

 三橋貴明「ドル崩壊!」(彩図社)が面白い。いや面白いなんて言っちゃいけない。世界同時不況の原因となったサブプライムローンについてきわめて分かりやすく解説してくれている。

 日本の多くの住宅ローンのビジネスプロセス上、登場する人物はほとんどのケースでローンの借り手と銀行だけである。借り手と銀行の1対1の関係だけを意識すれば済む、非常に単純なビジネスモデルである。
 これに対し、アメリカにおける住宅ローンのビジネスモデルは、非常に複雑だ。
 まず、金利水準が、借り手の信用力やライフスタイルにより異なる。信用力が低い場合は、金利が高く設定されるわけだ。アメリカ人はその気になれば誰でも、何らかの住宅ローンを借りることができたのである。(昨今は融資の審査が厳しくなり、借りられないケースも増えている)
 借り手の信用力が低く、リスクが高い場合は、融資が返済されず、貸し倒れる可能性が高くなる。この場合、日本の多くの金融機関は単純に融資を行わないという選択をする。それに対し、アメリカでは金利を高く設定することで融資可能とするのである。多少の貸倒が発生したとしても、ローンビジネス全体で収益をあげられれば構わないと考えるわけである。
 2001年から活況を呈した住宅ビジネスローンでも、リスクの高い人々、極端なケースでは無職の人に対してまで、アメリカの金融機関は融資を実行した。無論、信用力の高い人々に対する住宅ローン(プライムローン)と比べると、3%以上の金利を上乗せして融資したのである。
 これが2007年に世界を震撼させた、アメリカのサブプライムローンである。
 アメリカの住宅ローンは、たとえプライムであっても5%から7%台と、金利水準は決して(日本人から見ると)低くない。サブプライムローンの場合は、ここに3、4%の上乗せ金利が乗せられる。だが、実際には上乗せ金利に加えて、サブプライムローンでは追加で様々な手数料が乗せられていた。サブプライムローンの多くは、実質的な金利水準がたいていのケースで2桁に達し、酷いときには15%を超えるケースもあったのある。
 例えば価格が3000万円の住宅を、信用力の低いサブプライム層が年利12%で購入したケースを考えてみよう。
 1年間に支払う金利が3000万円の12%、つまり360万円となる。これを12か月で割ると、1か月に支払わなければならない金利が、何と30万円にも達する! もちろんこの額には、住宅ローンの元本は含まれていないのである。
 もはやこの時点で、きちんと返済することなど到底不可能に思える。
(中略)
 2007年初頭時点でアメリカの家計が保有する住宅ローンの残高は、約10兆ドル(約1000兆円)であった。内、サブプライムローンが約1.3兆ドルと、13%程度を占めている。

 アメリカの低所得者層がサブプライムローンを借りる気になった一つ目の理由は、オプションARM(ARM型ローン)という甘い罠の存在である。
(中略)
 オプションARMとは、住宅ローンの融資を受けた直後の優遇期間(3年が多い)について、小額の支払のみで済ませることが可能なオプションである。予め定められた優遇期間を経過すると、一般の住宅ローンと同じ標準の金利水準と元本の支払に移行する。
(中略)
 それ(日本の「ゆとりローン」)に対しオプションARMでは、例えば借り手が優遇期間に標準金利よりも少ない金額しか返済しない場合、返済金額と標準金利の差額が元本に組み入れられてしまう。要するに「標準金利よりも少ない金額の支払で済む」とは、別に融資する側が金利をサービスするわけではないのである。支払われなかった金利分は原本に上乗せされ、知らぬ間に借入金の総額が膨れ上がっていく仕組みなのだ。
(中略)
 先の3000万円の住宅を12%の金利で借りたケース(但し、優遇期間3年)で考えてみよう。優遇期間の間は素晴らしい新居に住み、標準金利の3分の1である10万円だけ月々の支払いを続けていた家庭が、3年を過ぎるといきなり返済額が金利30万円+元本に跳ね上がるのである。ローンの延滞が増加する以前に、破綻する家庭が続出して当たり前だ。(中略)
 02年時点のサブプライム延滞率上昇が問題にならなかったのには、明確な理由がある。02年までのアメリカの住宅ローンに占めるサブプライムローンの割合が、それ以降に比べると低かったからだ。
 02年までは、年間の住宅ローンにサブプライムローンが占めるシェアは、せいぜい3%程度に過ぎなかったのだ。ローンに占める割合が年に3%程度であれば、延滞率が上昇したところで全体に与える影響は小さい。
 ところが03年以降、サブプライムローンのシェアが急上昇を始め、2006年には15%にも達したのである。年間に貸し出される住宅ローンのうち、15%がハイリスクなサブプライムローンのわけだ。

 さらに住宅バブルが続いた。2000年1月の住宅価格を100とすると、2006年12月にはニューヨークで215.83ポイント、マイアミでは280.87ポイント、7年間でマイアミの住宅価格は2.8倍まで高騰した。「いかに高金利の住宅ローンであっても、いざとなれば住宅を転売してしまえば何とかなる、と誰もが思ってしまったのだ。」
 さらに大きな問題がある。ローンの供給側の問題だ。

 何しろサブプライムローンを提供していた金融機関の多くは、ローンを自前で保有し続けることを嫌い、貸付直後にファニーメイなどの政府系金融機関や、大手証券会社に売却してしまっていたからである。

 住宅ローン専門会社などからローン債権を買い上げたのは、主に政府系金融機関ジニーメイファニーメイフレディマック)と民間の投資銀行(証券会社や信託銀行など)である。(中略)
 貧困層を相手に金利2桁という、誰が考えても順調な返済など到底不可能な利率で貸し出されたサブプライムローンは、現代の「錬金術師」たちによりお化粧され、「投資適格」なRMBS(住宅ローン債権担保証券)に生まれ変わり売りに出された。21世紀初頭の金余りにより、高利回りの投資先に飢えていた投資家たちが、我も我もとサブプライムローン関連証券に群がったのは、この投資適格商品化、お化粧作業に因るところが大きい。

 なぜ危険なRMBSが大量に買われていったのか。

 さて、以下のステップが民間投資銀行によるサブプライムローンのお化粧のスキームである。
1. 住宅ローン専門会社や銀行から、サブプライムローン債権を多量に買い取る。
2. 買い取ったローン債券を、最も格付けが高まるように組み合わせる。
3. 格付けが低い組み合わせについては、モノライン会社に保証料を支払い、債券保証をしてもらう。
4. 債券保証を受け、格付け機関がローン債権をより高い格付けに引き上げる。
5. 高格付けの証券化商品として、RMBSを販売する。
(中略)
 1から5のステップを踏むことで、本来は投資不適格な証券化商品までもが、「投資適格」に姿を変えてしまった。まさに錬金術という呼び名が相応しい、見事な金融スキームだ。

 さらにCDOが事態を複雑化した。「サブプライムローン問題をさらに複雑にしたのは、CDO債務担保証券)という第2の証券化商品である。」CDOは「基本的な証券化商品作成のプロセスはRMBSと同じだが、RMBSが住宅ローンのみを担保にしているのに対し、CDOは各種債券や証券化商品、貸し付け債権(融資)など複数の「債権」を担保に証券を発行するところが異なる。」

 さて、証券化という錬金術により投資適格の証券に化けたRMBSCDOは、ハイリターンの割にローリスクな優良証券と銘打って、世界中の投資家に販売された。言わばアメリカは自国国民の「借金」を海外に「輸出」したわけだ。(中略)
 だが、(中略)証券化により「お化粧」されたRMBSCDOが、サブプライムローンという危険極まりない債権を担保にしていることは、購入したほうには全く分からない。何しろ天下の格付け機関が投資適格の評価を与えているのである。(中略)
 サブプライムローンの延滞率上昇、住宅の差し押さえ件数増加が顕著になるにつれ、投資適格の評価を受けた安全なはずのRMBSのデフォルト率が急激に高まった。当然ながらそのRMBSを担保にしているCDOのデフォルト率も高まったのだが、CDOの場合は更に「証券(CDO)の担保のどの程度の割合がサブプライムローン関連なのか」さえ分からないという、最悪の状況に陥ったのである。

 そして2007年7月10日。
 ローン延滞率の急上昇を受け、ついにムーディーズが、サブプライムローン関連証券の格下げに動いた。証券化市場は一気に冷え込み、信用収縮が世界中に劇的な速度で広まった。
 ベア・スターンズが名づけた、ブラディ・チューズデイ(血の水曜日)の始まりである。

 本書の発行は2008年9月16日、まさにその前日リーマン・ブラザーズが破綻した。それは本書が予測した方向だ。ここに簡単に引用したが、どうか本書を手にとってほしい。ていねいに分かりやすく解説している有益な参考書だ。